たん・たんか・たん 美村里江歌集 美村里江著
[レビュアー] 通崎睦美(木琴奏者)
編集者から「歌集を作りませんか」と誘われた著者は、1984年生まれの女優・エッセイスト。短歌初心者の彼女は、千本ノックをこなすかのように、2年5か月かけて700首の歌を詠んだ。
テーマ別に並ぶ236首の短歌に10編の書き下ろしエッセイを挟み込む趣向。巻末には700首を揃(そろ)える。各章の扉に添えられたイラストも微笑(ほほえ)ましい。<シャキシャキと紫蘇(しそ)に茗荷(みょうが)に新生姜(しょうが)叩くまな板立ちのぼる夏><病院を出て小春日を浴びながらぐっぱぐっぱと手で為(な)す自由>など、書籍から着想を得た52首については、その書籍データが記されている。著者の読書傾向が垣間見られて面白い。
当初は気負いがみられるも、趣味の渓流釣りでの体験から短歌も釣りも<ズルが効かない>と気付き、等身大の自分を映し出す。
<焼き餅の見栄えのいいのはあなた用雑煮で示す「今年もよろしく」>。誰にでも思い当たる日常のちょっとした「愛」が、かわいらしく詠まれる。
作歌未体験の読者も、「一度、短歌作ってみようかな」と思わされるのではないだろうか。(青土社、1800円)