『感染症の日本史』
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“人類”と“感染症”答えは歴史の中に
[レビュアー] 佐藤健太郎(サイエンスライター)
新型コロナはまたも感染が拡大しつつあり、予断を許さない。新規感染症であるだけに、予測にも限界がある。であれば今こそ我々は歴史に学ぶべきだというのが、磯田道史『感染症の日本史』の主張だ。
実際、人類の歴史は感染症との闘いの歴史と言っても決して過言ではない。伊勢祭祀も奈良の大仏も、その起源は悪疫の沈静化を願ったものだし、幕末に来航した外国人が持ち込んだコレラは、攘夷運動を盛り上げる一因となった。
史上最大のパンデミック、スペイン風邪には、昭和天皇も原敬も感染し、四五万人の日本人の命が奪われた。艦船内での大量感染も起きたし、多人数が集まらぬよう注意がなされる一方で、イベントは変わらず実施されると与謝野晶子が対策の矛盾を嘆いている。今と変わらぬ光景だ。
今と変わらぬといえば、江戸期の感染症流行時には、すでに休校や出社制限、給付金も存在していたという。さらに、接触感染や空気感染、隔離による感染防護、免疫の獲得といった概念に辿り着いていた医師もいたというから驚く。残念ながら感染症対策について、人類はさして進歩していないと思わざるを得ない。
人気の歴史家だけあって実に読みやすく、科学的な記述についても正確性が保たれている。
「世界をみて、一番、感染者や死者を減らしている国の対策を素早く取り入れる」「我々がやるべきことは、すでに歴史が答えを出している」とは、まさに至言と思う。