『小さな会社は「ドラッカー戦略」で戦わずに生き残る』
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ドラッカー戦略で勝つ。小さな企業こそ「スモールメリット」を活かすべき理由
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『小さな会社は「ドラッカー戦略」で戦わずに生き残る』(藤屋伸二 著、日本実業出版社)は、20世紀を代表する思想家、経営学者、経営コンサルタントであるピーター・ドラッカーの教えを「小さな会社」に適用したもの。
著者は、中小企業を対象としたコンサルティング、経営塾「藤屋式ニッチ戦略塾」、さらには執筆活動などを複合的に行っている人物。
注目すべきは、そのような立場から「ドラッカー理論は、大企業だけに通用する経営(マネジメント)理論ではない」と断言している点です。
そしてその根拠として、ドラッカーの代表作である『マネジメント』に書かれている「小さな会社の戦略」を紹介してもいます。
小企業と大企業は択一的な存在ではなく、補完的な存在だった。=中略=小企業は戦略を必要とする。小企業は限界的な存在にされてはならない。その危険は常にある。
したがって、際立った存在となるための戦略を持たなければならない。ニッチを見つけなければならない。『エッセンシャル版 マネジメント』(「はじめに」より)
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小企業は、生物学の用語でいえば、自己にとって有利な、また、競争に耐えうるような生態的空間(著者注:ニッチ)を見つけ出さなければならない。
しかし、現実には、ほとんどの小企業が、戦略をもたない。ほとんどの小企業が、機会中心ではなく問題中心である。問題から問題に追われて毎日を送っている。だからこそ小企業の多くが、成功しないのである。『抄訳 マネジメント』(「はじめに」より)
ここからも、ドラッカー理論が小さな会社にも適用できることは明らか。そこで本書では、小さな会社にとっての最適な事業戦略を提案しているのです。
PART1「小さな会社が戦わずに生き残るドラッカーの『生態的ニッチ戦略』のなかから、小さな企業のあり方に言及したCHAPTER2「スモールメリットを活かす」に目を向けてみましょう。
「スケールメリット」と「スモールメリット」
今後、機能に適した規模が課題となる。
私の仕事が最もできるのは、ミツバチか、ハチドリか、ネズミか、 シカか、ゾウか。いずれの大きさも必要である。それぞれの仕事にふさわしい大きさがあり、生態系がある。『テクノロジストの条件』(26ページより)
どんなことにもいえますが、メリットとデメリットは表裏一体。
たとえば大きな会社のメリットとしては、次のようなことが考えられます。
・大きな仕事に対応できる
・知名度があるので新規の商談がしやすい
・ヒト・モノ・カネがあるので、専門職やスタッフ部門をつくれる
・「現在のための仕事」と「将来のための仕事」の担当を分けることができる
・上場していれば信用されやすい
・さまざまな制度が整っており、大きな組織を動かすための仕組みやノウハウをもっている
・知名度があるので採用もしやすい
(27〜28ページより)
このように、小さな会社にはないスケールメリットを活かすことができるわけです。
大きな仕事をする際、小さな会社では太刀打ちできない絶対的な力があるということ。そのため小さな会社は、大きな会社と正面から競争する立ち位置(ポジション)にいてはならないわけです。(27ページより)
小さな会社は、スモールメリットを活かす
しかし、だからといって大きな会社がすべてにおいて有利だというわけではないはず。
上記のドラッカーのことばにあるように、「それぞれの仕事にふさわしい大きさがあり、生態系に合った経営」があるからです。
なお著者は、小さな会社のメリットとして次の点を挙げています。
・競争優位に立てる特定のニーズに専門特化できる
・臨機応変に対応できる(小回りが利く)
・社員全員がお客様に近いので、お客様志向になりやすい
・意思決定のスピードが速い
・間接費が少ないことで価格に反映できる
(28〜29ページより)
ここでも、メリットとデメリットは表裏一体。いいかえれば、“どの視点”でみるかによって、ひとつの事柄がメリットにもデメリットにもなるのです。
忘れるべきでないのは、そもそも、大きな会社と小さな会社とでは役割が異なるということ。
たとえば、マンモスタンカーを強者、手漕ぎボートを弱者と考える人はいないでしょう。また、大型トレーラーを強者、軽自動車を弱者と考える人もいません。
それぞれに特徴(メリットとデメリット)があるので、それにふさわしい使い方をすればよいのです。つまり、規模・サイズが違うものは、競争関係ではなく補完関係にあるのです。(29ページより)
だからこそ、小さな会社を弱者とする考え方は、根本的に間違っていると著者は主張しています。
先のドラッカーのことばにもあるように、自分の会社が対象に選んだ市場は、ミツバチ・ハチドリ・ネズミ・シカ・ゾウのうち、どの大きさがもっとも適切か? どの大きさが、効果的・効率的に「お客様満足」を提供できるか? そこに焦点を当てるべきだということ。
別の角度から見てみれば、もしも自身の会社の規模が適切でないのであれば、選択した市場が間違っているのだということ。たしかにそれは、的を射た指摘ではないでしょうか?(28ページより)
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「たんに『ドラッカー理論』を小さな会社向けにアレンジした机上の空論ではありません」と著者自身もいうように、本書は「ドラッカー理論」を用いて中小企業の業績伸長やV字回復を支援してきた著者の経験に基づくもの。そしてその内容は、規模の大小に関わらず、どのような企業にも応用できそうなものでもあります。
Source: 日本実業出版社