『世界は善に満ちている トマス・アクィナス哲学講義』山本芳久著
[レビュアー] 産経新聞社
中世ヨーロッパ最大の神学者、トマス・アクィナス。邦訳版全45巻に及ぶ圧倒的分量と難解さで知られる主著『神学大全』のうち、キリスト教性が希薄で現代人が読んでもその理路に納得する部分が多い感情論に着目した解説書だ。
たとえば「愛」は「欲求されうるものが気に入ること」と定義される。憎しみや欲望、怒りや希望といった各種の感情も、突き詰めれば愛が根底にあって生じる。そしてこの世には、欲求されうる未知の「善きこと」が多数ある-。哲学者と学生の対話編の形で、「楽天主義」「肯定の哲学」と表現されるトマスの根本精神が示される。(新潮選書・1760円)