『はじめてのスピノザ 自由へのエチカ』
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ありえたかもしれない「もうひとつの近代」に未来の自由を探す
[レビュアー] Pebbles Books(書店員)
『暇と退屈の倫理学』『中動態の世界』などの著作を通じて「自由」とは何かを問い直してきた國分功一郎さん。その最初の単著は『スピノザの方法』でした。
國分さんがその原点である十七世紀の哲学者スピノザの「自由」をめぐる思想を、現代の私たちにとってアクチュアルな問いかけとして紹介してくれるのが本書です。
なかでも、スピノザを特徴付ける概念「コナトゥス」の解説が刺激的です。コナトゥスは「ホメオスタシス(恒常性)」の原理に非常に近いと、國分さんはいいます。私たちという個と外的環境との関係によって常に相互に影響し合うダイナミズムとしての「自由」というイメージは、たとえば「アフォーダンス」や「中動態」といった概念へとつながり、身体や環境をめぐる哲学、建築やデザイン、舞踊といった芸術表現へも、連想が広がっていく刺激的なものです。
また、國分さんはスピノザがその出自であるユダヤ教会に反しても思想を追求したことに触れ、「真理の追求は必ずしも社会には受け入れられないし、それどころか権力からは往々にして敵視されるのだということを十分に理解しつつ、その上で真理を追求するのが哲学者なのです」と書きます。この言葉は、私たちの人文知や批評といったものへの態度について、鋭く問いを投げ込んでくるように感じます。