不自然な慣例に今こそNO! “外から目線”のツッコミの快挙
[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)
昭和七年創刊の短歌総合誌『短歌研究』。約九十年に及ぶ歴史を持つ老舗雑誌の「初めての増刷」に、いま業界全体が熱い視線を注いでいる。快挙を成し遂げたのは五月号。表紙には「三〇〇歌人新作作品集」の特集タイトルと共に〈一冊丸ごと、短歌作品。性別や年齢では括りません。〉の文言が刻まれている。
同誌では毎年、三月号は女性歌人、五月号は男性歌人を特集するのが恒例となっており、半世紀以上続く名物企画でもあった。だが「いまの編集方針に合わない」として、昨年から性別はもちろん、年齢、キャリアに関係なく五十音順で作品を掲載する方針に転換。折悪しく初の緊急事態宣言の発令と重なり、話題にのぼる機会を逸した去年の苦い経験を踏まえ、今年は表紙でしっかり銘打つことに。結果、発売と共に評判を集め、部数四千部のところ完売店が続出。五月に二刷、六月には三刷を達成する異例中の異例と呼ぶべき事態につながった。
「それだけ短歌界にとって革命的なことだった」。熱く語るのは、「フラワーしげる」名義で歌人として活躍する作家・翻訳家の西崎憲氏だ。
「結社の活動を中心とする短歌の世界はどうしても閉じた状態になりがち。年功序列の呪縛やジェンダーバイアスが根強いところも多い。今回の“明文化”は、みんなをフラットな形でテーブルにつかせるための大きな一歩だった」(同)
一方、四年前に同誌の編集長に就任した國兼秀二氏は照れくさそうに振り返る。
「むしろ“短歌界の常識”に私自身が疎かったことが功を奏したのかもしれません。就任するまでほとんど短歌に触れたことがないような状態で、実際に本誌を読んでいても理解できないことがたくさんあった。そのぶん、不自然な慣例に対して素朴に反応できたのではないかと思います」
総じて紙の雑誌の読者は高齢化の傾向にあるが、とりわけ専門誌の場合は定期購読者が多く、変化を嫌う面があると聞く。「若い人を取り込むために雑誌を変える気はないんです。ただ、既存の読者も未来の読者も自由に短歌にアクセスできるような回路を整えることに貢献できたら、と」(同)。