『夜ごとの才女 怪異名所巡り 11』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
赤川次郎『夜ごとの才女 怪異名所巡り11』を書評家・朝宮運河が読む「生者と死者の思いをつなぐ物語」
[レビュアー] 朝宮運河(書評家)
生者と死者の思いをつなぐ物語
古来ゴーストストーリーは、非業の死を遂げた者たちに思いを馳せ、声なき声に耳を傾ける物語として機能してきた。赤川次郎の人気シリーズ約二年ぶりの新作『夜ごとの才女 怪異名所巡り11』もまた、生者と死者の思いをつなぐ“優しい”物語だ。
〈幽霊と話ができる〉霊感バスガイドの町田藍(まちだあい)がさまざまな事件に遭遇する本書では、全六編のうち冒頭二編が“死者の思い”をメインテーマとして扱っている。著名なピアニストに依頼されて港町へのバスツアーに添乗する「あの夜は帰ってこない」。人気俳優が主演する舞台でもの哀しいメロディが聞こえてくる「劇場の幽霊」。前者では三十年ほど前に起こった事件の犠牲者たちが、後者では劇場で自ら命を絶った役者がそれぞれ死後の世界から現れ、つかの間生者と心を交わすのだ。
藍が迷える魂に寄り添えるのは、彼女の大ファンの遠藤真由美が述べるとおり、〈死んだ人と会話することで、誰よりも生きることの価値を分って〉いるからだろう。藍の優しさは生きた人間にも向けられ、「簡潔な人生」では記者会見で大失敗してしまったエリート公務員に、「夜ごとの才女」では毎晩誰かに殺されかける悪夢に悩まされる女性タレントに、救いの手を差し伸べている。
もっともバスガイドである藍の一番の目的は、幽霊好きのツアー客を満足させることだ。不気味な犯罪者の護送を描いた「悪魔は二度微笑む」のような緊迫した作品であっても、真由美をはじめとするツアー客たちがにぎやかに登場し沈んだムードを吹き飛ばしてしまう。ミステリアスでありながら明るくユーモラス。その絶妙なバランス感覚こそ本シリーズの人気の理由だろう。
最終話「命ある限り」では入院した藍のもとに不気味な影が迫る。果たして彼女はこのままバスガイドを続けられるのか。シリーズ開始からまもなく二十年、ますます目が離せない〈怪異名所巡り〉。早くも次巻が待ち遠しい。
朝宮運河
あさみや・うんが●書評家