有田哲平「映像化、絶対不可能」 フェイク・ドキュメンタリー「出版禁止」シリーズにハマったワケ

対談・鼎談

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出版禁止 いやしの村滞在記

『出版禁止 いやしの村滞在記』

著者
長江 俊和 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103361749
発売日
2021/08/31
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

長江俊和『出版禁止 いやしの村滞在記』刊行記念対談 「謎」の楽園――作る楽しみ、解く快感

[文] 新潮社


長江俊和さんとくりぃむしちゅー・有田哲平さん

長江俊和×有田哲平・対談「『謎』の楽園――作る楽しみ、解く快感」

フジテレビの深夜枠で放送され、カルト的な人気を読んだ「放送禁止」。その監督・脚本を手がける長江俊和さんが「映像ではできない謎解き」に挑戦した「出版禁止」シリーズの新作が刊行。

「いやし」と「呪い」をテーマに作り上げた『出版禁止 いやしの村滞在記』の刊行を記念し、「放送禁止」「出版禁止」シリーズの大ファンを公言している、くりぃむしちゅーの有田哲平さんが、長江さんと「禁止シリーズ」の魅力を語り合った。

※放送禁止とは お蔵入りになっていたVTRを再編集して紹介する、という体裁のフェイク・ドキュメンタリー。いくつもの謎が隠されているが、詳しい解説はなく、視聴者自ら頭を悩ませる必要があるため、「謎解き好き」から熱狂的な支持を得る伝説の映像作品。テレビ版七作、劇場版三作がある。

 * * *

長江 新作『出版禁止 いやしの村滞在記』(註:「いやしの村」という共同体への潜入取材の記録、という体裁のフェイクノンフィクション)、いかがでしたか?

有田 いやー、やっぱりやられましたね。長江監督お得意の「出版禁止」ですから、仕掛けてきてるんだろうって、そういう心構えで読んだんですよ。だから、常に何か引っ掛かってる。ずっと「何これ? おかしい」っていうのはある。なのに、全然分からない。

長江 凄い、手書きのメモがびっしり。

有田 考察しながら読んだんです。なんか怪しいなってのは気付いているのに、はっきり「こうだ!」とは形にできないんですね。もやもやしたままなんだけど、とにかく先を読みたくて仕方ない。

長江 嬉しい感想、ありがとうございます!

有田 最初、ちょっとだけと思って読み始めたんですよ。でも、気付いたら朝の五時で、一気読みでした。いやー、今回もやられましたね。そして、読み終わってから、「正しい読み方」で二回目を読みました。冒頭の詩も、●●●には気付いていたのに、それが何を意味するかは全然分からなかった。

(註:●●●はネタバレ伏字、以下同)

長江 いきなりそこに気付かれるとは、さすがですね。

有田 最後にきちんと説明があっても、頭の中で整理がついてないところがあるんですよ。それで、仕掛けが分かったうえで二回目を読んでいくと、「なんだ、ちゃんと書いてあるじゃないか!」と。この面白さが、「出版禁止」の醍醐味なんですよね。二回でも三回でも楽しめる。この作品は、いつ頃から考えてらしたんですか?

長江 書き始めたのは、去年(二〇二〇年)の一月くらいからですね。

有田 結構前なんですね。テーマや題材もそのときに?

長江 担当編集者が、テレビの「放送禁止」ファンで。中でも5の「しじんの村」が大好きなんですよ。

有田 僕も、一番好きなのは「しじんの村」です。

長江 ああいう世界観で、呪いとか宗教的な感じのものをやりたいね、って話になって。「しじんの村」を観たことがある人にも楽しんでもらえるようにというのは、特に注意しました。書いてる間ずっと、早く有田さんに読んでもらいたいな、と思ってて。

有田 メールいただきましたからね。「『しじんの村』っぽいやつを書きました。内容は全然違いますけど」って。それを踏まえて読んでるわけです、こっちは。焼き直しなんて絶対するわけないから、今度はどんな手で来るんだろう、って。

長江 嬉しい反面、凄いプレッシャーですね……。

有田 でも、全然分かんなかったなあ。やられました。本当に面白かった。沢山の人に勧めたいですね! 「放送禁止」をご存知の方に対して言えば、僕なんてもう死ぬほど観てるわけですけど、それだけ観ている人間が、やっぱり唸る内容なんですよ。そして、ミステリー好きも納得させられる内容ですね。更にこれ、映像化、絶対不可能。だから、本で読んでもらうしかない。

 ところで、相当取材されましたか?

長江 実際にどこかへ行って現地取材した、ってことはないですが、呪いとか、そういった関連の本は読みまくりました。

有田 「へえ、そうなんだ」みたいな話とか、論文みたいなのが沢山入ってるじゃないですか。書くの、苦労されたんじゃないですか?

長江 横溝正史に『悪魔の手毬唄』っていう名作があるんです。それは鬼首村という場所が舞台で、「鬼首村手毬唄考」っていう郷土史の研究記事を紹介するところから、小説が始まるんですよ。地勢がどうとか、人口は何人とか。そういう架空の学術論文のようなものを入れてみたかったんですよね。あれ書いてるときが一番楽しかったです。

有田 大変なんじゃなくて、楽しかったんですか。しかも、あれが後からちゃんと効いてくるんですよね。

長江 実は、「●●●」という大オチは、最後に思い付いたんですよ。書きながら、何か足りないなと思っていて。これを思い付くまでが、一番苦しんだところかもしれないですね。

有田 え……。あれ、最初はなかったんですか? てっきり最初から決まっていたのかと。

長江 途中まで書き進めたところで、乗らなくて一回書くのやめたんです。しばらく時間をおいて、構成を見直してるときに、「あっ!」と閃いたんですよ。「●●●」にしてやれ、って。

有田 それで今の形に。

長江 最初の原稿は、最後の説明も何もなくて、ある場面でスパッと終わってたんです。そのままだとさすがに分からないんじゃないかって話になって、最後に解説っぽい章を入れました。

有田 とはいえ、今の状態でも、全部丁寧に解説してくれてるわけじゃないですよね。自分で考えないと分からない部分がある。「放送禁止」でもそうですけど、その塩梅が絶妙だな、といつも思うんです。

長江 そこは最後まで悩むところで。正解がないから、難しいですね。

有田 ファンとしては、説明しない部分は残しておいて欲しい。

長江 そうですよね。全部明かしたらつまらない。

有田 自分で考えて分かって「うわっ!」って驚いて、全部解明したつもりになってても、「じゃあこれ気付いた?」って差し出されるようなネタが、必ず一個くらいは隠されてる。

長江 意図していない読み解きも、結構あるんですけどね(笑)。

有田 「放送禁止」や「出版禁止」って、こっちが勝手に考えて、色々思い込んでるところ、絶対ありますよね。

長江 そんなふうに入り込んでもらえるのは嬉しいし、そういう考察の中に、自分では意識していなかったけど、深層心理ではきっとそうだったんだろう、みたいな指摘があったりするのも、楽しくて怖いところですね。

新潮社 波
2021年9月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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