9割が未解剖で葬られる17万人の見過ごされた「死」

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死体格差

『死体格差』

著者
山田 敏弘 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784103347736
発売日
2021/09/16
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

9割が未解剖で葬られる17万人の見過ごされた「死」

[レビュアー] 金子恵美(元衆議院議員)

『死体格差』とは何か。私は本書を通して『死者の人権問題』であると考えました。生存している間に暴行を受けたり、盗難に遭ったりすれば、刑事事件として捜査が行われ、事件の真相を知ることができます。しかし、死んでしまっては捜査を求めることも、自らの死の真相を知ることも当然できない。実際、我が国では年間17万件もある異状死の多くで真相究明がなされていないということには驚愕を越えて、危機感を抱きました。その原因は警察の捜査と解剖学の狭間にある問題や、法医学者の人員不足の問題、日本の政治・行政の認識不足からくる不十分な国家予算および法整備の実態など、本書の中で多岐にわたる視点で説明されています。日本の構造上の問題によって引き起こされている死者の人権問題を解決することは極めて重要であると認識しました。

 世界の国々と比較しても日本の死因究明制度は圧倒的に遅れています。例えばアメリカには前述のような問題は存在せず、死因究明についての社会的理解も進んでおり、当然のように死因究明はなされるのです。さらに法医解剖から一定期間が過ぎたのちに市民が希望すれば、その情報にアクセスすることもできるそう。それ程までに人の死は社会の関心事であり、個人情報の保護よりも死の原因を知る権利が優先されているのです。日本とは根本的に本件についての意識や考え方が異なることがわかります。

 コロナ禍の緊急事態宣言と連日のコロナ報道で「死」について考えた方も多いと思います。そして、私も貴方も不慮の事故に巻き込まれていつ命を落とすかわかりません。明日は我が身です。もしも、悪意ある人間に殺害され、何ら疑われもせずに自然死とみなされたとしたら、私や家族の尊厳はいったいどうなるのだろうかと思わずにはいられません。見過ごされていた「死」の中に大事件が潜んでいたかもしれないし、重大事件解決の鍵が隠されていたかもしれません。

 2019年の異状死体の解剖率は兵庫県で36・3%、東京都で17・2%、そして広島県では1・2%という低水準です。ワースト1の広島県は岸田文雄総理大臣のお膝元です。岸田総理にはこの広島の現状をきっかけに、全国でのテコ入れを期待したいところです。全国では約9割の異状死体が未解剖だという現状は私たち一人一人が問題視し、変えていかなければならない社会問題であるとの認識を与えてくれる一冊です。

新潮社 週刊新潮
2021年12月23日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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