『最強脳』
- 著者
- アンデシュ・ハンセン [著]/久山 葉子 [訳]
- 出版社
- 新潮社
- ジャンル
- 自然科学/自然科学総記
- ISBN
- 9784106109300
- 発売日
- 2021/11/17
- 価格
- 990円(税込)
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文と武は分かちがたい
[レビュアー] 和田孫博(灘中学校・灘高等学校校長)
教育大国スウェーデンで小中学生10万人が読んだアンデシュ・ハンセンによる著作『最強脳―『スマホ脳』ハンセン先生の特別授業―』が刊行。脳力強化のバイブルと言われる本作の読みどころを、灘中学校・灘高等学校校長の和田孫博さんが語る。
和田孫博・評「文と武は分かちがたい」
私が校長を務める灘中学・高校の創立には嘉納治五郎先生が深く関わっています。先生は「柔道の父」としても知られますが、東京高等師範の校長を長らく務め、教育者としても高名です。先生は「文武両道」を超えた「文武不岐」や「文経武緯」という言葉を残しておられます。どちらも、「文と武は分かちがたいものだ」ということです。本書を読んでまず想起したのはそのことでした。
本書が伝えたいことはきわめてシンプルです。
運動が脳の力を伸ばす、ということです。具体的には、集中力や発想力、記憶力などといった能力はどうすれば伸ばせるのか。そうしたことをやさしく説明していて、説得力があります。
思えば、本校は発想力や集中力、爆発的な瞬発力に優れた生徒が多いのですが、7割近くが運動部に所属し、陸上や水泳ではインターハイ選手も輩出しています。柔道が必修ですし、教育方針にも、運動の奨励を挙げています。
もうひとつ想起したのは、いま教育界でよく話題になる「ソサエティ5・0」です。これは内閣府が提唱している新しい社会像なのですが、簡単に言えば、狩猟社会を「ソサエティ1・0」とすると、農耕社会、工業社会、情報社会に次ぐ5番目の社会、仮想空間と現実空間が高度に融合された社会なのだそうです。
いわば、デジタルとリアルが同居する社会なわけですが、そこで活躍するためには、デジタルな知識と健全な身体が必要でしょう。しかし、本書を読んで思ったのは、なるほど、社会は変化し、技術も進化するでしょう。しかし、脳というのは狩猟時代から変わらない――そのことを忘れてはならないのだなということでした。
もちろん、灘でも中学生全員にパソコンが配付されています。校内Wi-Fiも整備されています。校内へのスマホ等の持ち込みも禁止していません。道具として便利ですし、今後も使われ続けるでしょう。
ただ、いかに便利ではあっても、いかに道具の進化が進もうとも、私たちはそれらと「狩猟時代の脳」で付き合っていかなければならない。
スマホをはじめとするデジタル・デバイスによって、現代の子どもたちにある種の依存症や睡眠障害が広がっている現状があります。そんな時代を生きる子どもたちに、またその親たちに、どうやって状況に負けず脳の力を伸ばし、「ソサエティ5・0」を迎えるか、そのためにも読んでもらいたい一冊です。