戦国時代の日本とマカオを背景にした壮大な歴史小説 人を信じる意味、生きる意味を問う圧巻の展開

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南蛮の絆 多聞と龍之進

『南蛮の絆 多聞と龍之進』

著者
大村友貴美 [著]
出版社
双葉社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784575245172
発売日
2022/05/19
価格
2,090円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

手に汗握るとは、このことか。史実を巧みに織り込みながら、熱気に満ちたストーリーが展開。徳川幕府黎明期。激動の時代を舞台にした壮大な歴史小説『南蛮の絆 多聞と龍之進』大村友貴美

[レビュアー] 細谷正充(文芸評論家)

 関ヶ原の戦いで人さらいにあい、離ればなれになった少年ふたり。片やポルトガル商人、片や宣教師に救われ、それぞれの道で成長する。長崎、マカオ、海をも渡り、ふたりの人生がさまざまに交錯する! 有馬晴信によるポルトガル船襲撃事件やマカオの戦い(ボルトガル対オランダ)など、史実を織り込みながら、人生の喜怒哀楽をたっぷり読ませる壮大な長編歴史小説!

 書評家・細谷正充さんのレビューで『南蛮の絆 多聞と龍之進』の読みどころをご紹介する。

 ***

物語を通じて、人を信じる意味、人の生きる意味が、力強く問われている。

歴史に対する興味と知識が、作品の端々から窺える。そんなミステリー作家がいる。大村友貴美だ。その作者が、明治期を舞台にした医療ミステリー『緋い川』を経て、ついに本格的な歴史小説『南蛮の絆 多聞と龍之進』を上梓した。戦国時代の日本とマカオを背景にした、壮大な人間ドラマである。

関ヶ原近くの村で暮らす少年の多聞と龍之進は、天下分け目の戦に雑兵として参加した父親を心配して、様子を見に来る。しかしふたりの父親は死んだ。さらに、人さらいに遭遇し、離れ離れになってしまう。その後、龍之進はポルトガル商人のマヌエルの家にもらわれ、多聞は宣教師に助けられキリスト教徒となる。

長崎で再会したふたりだが、ポルトガル商人が誣告されたことで運命が暗転。捕らえられたマヌエルと、彼が娘のように育てていた松田沙羅を助けるため、龍之進は海に乗り出す。曲折を経て、マカオを拠点とする交易商となった龍之進は、女商人になった沙羅と再会。さらに、キリスト教を弾圧する日本からやって来た、多聞とも再会するのだった。

という粗筋は、物語の前半に過ぎない。以後、龍之進と多聞を中心に、多数の人々の波乱の人生が描かれていく。感心したのは、九州のキリシタン大名・有馬晴信が東南アジアに送った朱印船の乗組員がマカオで起こした事件から始まる一連の騒動が、龍之進や多聞と大きくかかわることだ。またクライマックスは、マカオに攻めてきたオランダ艦隊との戦いなる。このような史実を巧みに織り込みながら、熱気に満ちたストーリーが展開していくのだ。手に汗握るとは、このことか。

しかも物語を通じて、人を信じる意味、人の生きる意味が、力強く問われている。何度も辛い思いを味わいながら、自分の道を見つけていく、主人公たちだけから、テーマが伝わってくるのではない。龍之進や多聞を苦しめるバレンテという男も登場するが、彼にもそこに至るまでの生の軌跡があった。深く彫り込まれたキャラクターが、バレンテを単なる悪役で終わらせない。

人種も立場も関係なく、激動の時代を生きる人々の、喜怒哀楽が息づいているのだ。だから本書は、こんなにも読みごたえがあるのだろう。今後も作者が歴史小説を執筆することを、期待せずにはいられない快作である。

COLORFUL
2022年6月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

双葉社

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