冷めきった夫婦は修復可能なのか? 2児の母で作家の椰月美智子が語る【前編】

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きときと夫婦旅

『きときと夫婦旅』

著者
椰月美智子 [著]
出版社
双葉社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784575245424
発売日
2022/07/27
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

家出した息子を追い、冷戦状態の夫婦が二人旅をするはめに。ついに決別? はたまた関係修復? 本音炸裂の夫婦ロードノベル!『きときと夫婦旅』椰月美智子インタビュー

[文] 双葉社

中3の息子、昴が家出した。行き先は富山県の氷見。慌てて連れ戻しに向かった母親のみゆきと父親の範太郎だが、昴はまだ帰らないという。倦怠期真っ只中、ほぼ口も利かなくなっていた夫婦は、昴が帰ると約束した日まで富山に滞在するはめに……。

東京の狭い我が家で繰り広げられてきた夫婦の冷戦。雄大な北アルプスと豊かな富山湾を擁する北陸の旅先でも、やはり続行なのか?

「これ、ウチのこと!?」と、長年連れ添った夫婦なら身に覚えのあるエピソードが満載!

「家事と子育て、避けて通れると思ってる?」妻
「妻はいつまで不機嫌を通すのか?」夫

主人公である妻・みゆきと同年代の担当編集者S(48歳・二児の母)が、自身も妻であり、二人の息子さんを育てる著者の椰月美智子氏に創作の舞台裏などを伺った。

***

──まず、この物語が生まれたきっかけを教えてください。

椰月美智子(以下=椰月):ロードノベルを書きたいと思ったのがきっかけです。家族の話にしたかったので、息子を追いかけていく形で旅に出るのがいいかと思いました。ロードノベルというよりは、珍道中ノベルになりましたが。

──冷戦状態の夫婦の様子が手に取るようにわかりますが、妻のみゆき、夫の範太郎、ともにモデルがいるのでないかと思うくらいリアルでした。

椰月:畏れながら、担当編集者Sさんのご夫婦のお話を聞き、参考にさせていただきました。おかげさまでリアリティあるトピックスが書けました。どうもありがとうございました(笑)

──打ち合わせでも、夫への愚痴をたくさん聞いていただきました、すみません(笑)。

椰月:夫への不満や苛立ちは同じでも、我が家とはまったく違う夫婦関係でしたので新鮮でした(笑)。子どもの年齢によっても不満のポイントは異なりますが、なにより現在の境地にたどり着くまでの過程が重要ですよね。

──範太郎は鉄道オタクの夫です。なぜそのような設定に? 「鉄」ぶりがひしひしと伝わってきました。

椰月:登場人物を考えたとき、範太郎は、「マイペースで、自分勝手な夫」というイメージにしたいと思っていました。そこで、年齢を重ねても没頭できる趣味はなんだろうと考えたとき、鉄道好きの「鉄ちゃん」が浮かびました。決して「鉄」が自分勝手というわけではないですので、そこのところご理解ください~。

双葉社の社内にも、たくさんの「鉄」さんたちがおられましたので、取材させていただきました。知らないことばかりで、ものすごく参考になりました。

──息子の家出先は富山県ですが、物語の舞台を富山にした理由は?

椰月:昴の家出の理由から、最終的に海にたどり着くのがいいなと思っていたので、海がある場所を探しました。地図を見て、日本海側の氷見がいいのではと思い、富山にしました。

また富山は、鉄道王国ということもあり、範太郎の「鉄」設定にもぴったりでしたので。

──富山県内の実在の場所や施設などがたくさん登場するので、ロードノベルとしても楽しめます。2021年4月の富山取材で特に印象に残っていることは?

椰月:初富山だったので、すべてが印象的だったのですが、なんというのか体感的に、富山市内がとても潤っている気がしました。ものすごく「気」がよくて、気持ちよかったです。住みたいと思ったくらいでした。それと、どこにいても、北アルプスが見えるのは感動的でした。

小説のなかで夫婦が乗車する「一万三千尺物語」もよかったです。わたしは「鉄」要素がまったくない人間なのですが、列車の旅ってたのしいなあと心から思いました。新鮮でした。

──みゆきは夫に対して「家事と子育て、避けて通れると思ってる?」「どうして自分の息子のことなのに、他人事なのか?」と不満を抱いています。まさに、世の多くの妻の思いを代弁してくれているようです。


『きときと夫婦旅』の著者・椰月美智子氏

椰月:近年、ジェンダー平等がだいぶ進んできていると感じていますが、家庭内ではまだまだだという印象です。家事もそうですが、子どもに関することは母親が、という意識が社会全体にあるような気がします。時間を取られる予防接種や通院、煩雑な学校への持ち物や提出物の用意など、ほとんどの家庭で母親が担っているのではないでしょうか。母親のほうも、間違いがあっては困ると、夫には任せきれない部分がある。わたしもそうです。夫にやってもらいたいけど、説明するのも面倒だし、心配で任せられない。

でも、この考えがおかしいんですよね。妻がやってしまうから、夫は責任感を持てない。実際シングルのお父さんはすべてやってるわけですから。

母親、父親、両方の意識を変えないといけないと思います。道のりは長いと思いますが。

──みゆきが流産したときに夫が放った言葉に対し、「あれはマンスプレイニングだった」とみゆきは回想しています。「マンスプレイニング」とは、男性が女性を無知だと決めつけ、見下した態度でアドバイスしたりすることを指しますが、範太郎の発言はまさにそうだったように思います。妻からすれば、完全にアウト!ですね。

椰月:女性を見下したような態度を取る男性は、一定数いると思います。自分は気を付けている、そんなことはしない、という人も、言い合いになったときなど、自分を守るためにとっさに女性を貶める人っていますよね。家庭内ではそういうことが頻繁に行われている気がします。

──つい妻のみゆきに肩入れしてしまいますが、夫と妻それぞれの視点で交互に描かれているので、夫の立場から見た妻の姿にハッとすることもありました。たとえばいったん気に障ることがあると、いつまでも不機嫌を通してしまうことなど。

椰月:わたしも、みゆきの気持ちに全面的に賛同ですが、夫から見ると、妻が不機嫌を通すことや、子どものことに神経質なところなど、鼻につくんでしょうね。

妻は妻なりの、夫は夫なりの言い分があります。歩み寄るにはどちらかが妥協するしかないと思いますが、どうして自分のほうが妥協しなくちゃいけないんだ? そこまでする必要があるのか? とつい意地になってしまう。よく、夫を手のひらで転がせばOKみたいなことを言う人がいますが、そういうことができる時期はとっくに過ぎ去っているんです。

わたしも、夫を許せる寛大な心が欲しいです。

【後編】「ママ友界隈では、よく耳にする秘密」 2児の母で作家の椰月美智子が語る

COLORFUL
2022年8月5、6、7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

双葉社

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