余命宣告された写真家の心に置かれるような言葉と

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ラブレター

『ラブレター』

著者
幡野広志 [著、写真]
出版社
ネコノス
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784910710044
発売日
2022/07/28
価格
2,420円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

余命宣告された写真家の心に置かれるような言葉と

[レビュアー] 夢眠ねむ(書店店主/元でんぱ組.incメンバー)

 今年の1月に、〈ほぼ日〉の「本屋さん、あつまる。」というイベントで幡野さんとおしゃべりする機会をいただいた。大きい幹のようなどっしりとした安心感がある幡野さんと、人様の恋愛相談にのったりお互いの配偶者について話したり。今思えば大の大人が初対面で恋バナをするなんてなかなかないし、お互いが(あつあつではない常温の)惚気話を交換したような時間だったが、とても自然に話せて楽しかった。

 著者の幡野さんは写真家。34歳の時に多発性骨髄腫という血液がんと診断され、余命3年と宣告される。そんななか、妻の由香里さんと、息子の優くんにあてたラブレターの連載をウェブで始める。現在も連載中だが、48通のラブレターをまとめたのがこの本である。ストンと心に置かれるような言葉と、家族の時間が切り取られた写真。

“愛している”のような直接的な言葉だけじゃなく、わざわざの愛じゃなく、3人が家族として過ごすとき自然に流れている愛を幡野さんがすくいとって文字にしているようで、妻でも息子でもない私が読ませてもらっていいのかわからないほど大切な文章である。幡野さんの奥様はまだ、このラブレターを読んでいないらしい。

「おとうさんの味」というタイトルのラブレターに書かれている一文を紹介したい。優くんにから揚げをリクエストされて、血液をサラサラにする薬を飲んでいるため包丁を扱うのにリスクはあれど、愛しい息子のために美味しいから揚げを作る幡野さん。

〈将来ぼくがいなくなって、優くんがお父さんのから揚げを食べたいと涙があふれそうな無理難題をいったら、日清のから揚げ粉を使ってください。〉

 なんでもないようで、いつかのためのタイムカプセルになる言葉と、必ず結びの言葉に使われる〈また書きます。〉を、これからも赤の他人として覗かせていただく。

新潮社 週刊新潮
2022年11月24日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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