英国の孤島から消えた灯台守たち 心の闇を照らす著者の描写

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光を灯す男たち

『光を灯す男たち』

著者
エマ・ストーネクス [著]/小川 高義 [訳]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784105901837
発売日
2022/08/25
価格
2,640円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

英国の孤島から消えた灯台守たち 心の闇を照らす著者の描写

[レビュアー] 大竹昭子(作家)

「灯台守」という言葉には独特の響きがある。人里離れた岬や島に屹立する塔。そこに寝起きしながら暗い海原に光を灯す職務は、古今東西の小説家の想像を刺激してきた。

 本小説の舞台も英国コーンウォールの島にある灯台である。任務に就いていた男三人が忽然と姿を消すという事件を、それが起きた一九七二年と、二十年後の一九九二年を往き来しながら物語っていく。

 失踪したのは主任のアーサー、補佐のビル、補助員のヴィンセントの三人。アーサーは重心の据わった孤独に耐えうる人物だが、不注意で起こしたある出来事が心の傷になり、妻との関係に暗い影を落としている。

 ビルは母親の命と引き換えにこの世に生まれ、口が重く、滞在が四十日をすぎると石のように硬くなる。三人のなかで一番若いヴィンセントも複雑な生い立ちで、刑務所暮らしを経験している。だれもが人に明かしにくい過去をもっているのだ。

 一九九二年の章は、この事件を本に書こうと取材に訪れた作家に、残された妻や恋人が事件への思いを語るという形式をとる。あれ以降、世間にはさまざまな憶測が飛び交い、彼女たちの心をいたぶってきた。

 三人が失踪する前夜、灯台は点灯していた。ということは夜の間はだれかが当番をしていたのだ。ところが、翌朝、補給船が行くとみんな消えていた。解明の手がかりは乏しく、どれも想像の域を出ない。

 実際にあった未解決の事件を元にしており、ミステリー風だが、謎解きが主眼ではない。中心となるのは人々の記憶の領域だ。登場人物の心のひだをゆっくりとめくる著者の手つきは周到で、描写力に富む。

 点きっぱなしの不動光、一定間隔ごとに短い光を放つ閃光、光っている時間が消灯より長い明暗光など、さまざまな光り方をする灯が人々の心の闇を照らしだしてゆく。唯一真実を知っている者がいるとすれば、それは灯台だろうか?

新潮社 週刊新潮
2022年12月8日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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