自分をよく見せるために演じてしまうことは嘘つきで悪いことなのか? 作家・住野よるが語る

インタビュー

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腹を割ったら血が出るだけさ

『腹を割ったら血が出るだけさ』

著者
住野よる [著]
出版社
双葉社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784575245431
発売日
2022/07/27
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

小説『腹を割ったら血が出るだけさ』創作秘話を聞く、住野よるインタビュー

[文] 双葉社

 住野よるの第9作『腹を割ったら血が出るだけさ』は、これまでの住野作品とは異色の読み心地だ。

 過去最大人数の登場人物がそれぞれに持ち合わせている「偽りの自分」と「本当の自分」ついての捉え方。異なった意見は、時に激しく衝突し、時に知らないうちに影響を及ぼし合っている。そう、この作品には、他者の人生と交差するときの痛みと喜びの両方が描かれているのだ。

 もう一度「小説を好きになるために」書いたというこの物語の中で、住野よるがどんなことを思い抱いていたのか、より深く話を聞いた。

■自分を演じてしまう人は、自分や誰かのためにかっこつけられる能力を持った人

──『腹を割ったら血が出るだけさ』を読んでいて、さまざまな点での「新しさ」を感じました。その一つは、住野作品史上で最多の登場人物。視点人物が次々と変わっていく群像劇の形式で物語は進みますが、執筆中、これだけの人数に感情移入をしながら書く苦労などはありましたか。

住野よる(以下=住野):感情移入をするという点では、普段からメイン以外の登場人物に対しても、この世界のどこかで生きている存在だという意識を持っているので苦労はしませんでした。むしろ、ひとつの場面において登場人物全員に見ているもの聴いているものがあるにもかかわらず、そのうちの誰か一人が知覚しているものに限定して物語を進めなければならないことに時間がかかりました。

──たしかに群像劇という描き方だと、同じ場面に4人がいたら、4人のうち誰の視点で書くのかという選択肢があります。その取捨選択は、どのようにして決めるんでしょうか。

住野:特別な方法はなく、一つの場面を様々な視点のシーンとしていくつも想像し、ひたすら比べながら書き進めました。

──主人公の女子高生・糸林茜寧の人物造形も新鮮でした。優れた容姿と頭脳を持ち、素敵な恋人や友達に囲まれる……など、住野さんの作品の中でもトップクラスの“リア充”なキャラクターだと感じます。彼女は、血の滲むような努力で表の自分を演じ続けるという息苦しさを抱えていますが、そんな茜寧を今作で描いてみていかがでしたか。

住野:最初は茜寧を自分とはまるで違う存在として書き始めました。それこそ、容姿端麗で誰とでも仲良く出来る能力を持っていて年上達には可愛がられて……、なんて人間の気持ちは本当のところで自分には分からないのかもしれないと考えていました。しかし書いていくうちに、誰かに嫌われたくない自分が大嫌いで、見つかりたくないのに見つけてほしくて、そんな揺れ動く茜寧が、登場人物達の中でも生粋に自分と重なっていきました。

──茜寧に限らず、私達も日常生活やSNS上において、ついつい自分をよく見せてしまうことがあるかと思います。「自分を演じること」について、住野さんはどのように考えますか。

住野:生きている上で自分をよく見せようとする茜寧や、他の誰かを嘘つきだとか悪いやつだとは思いません。自分のため、誰かのために、かっこつけられる能力を持った人だと思います。

■周囲からの評価ではなく、自身の感性に従って決めようと思った

──住野さんは執筆される時に、いくつかの書くべき場面を決め、そのチェックポイントを通っていくように物語を進めてていくとうかがいました。事前の構想と、書き終わったあととで、変わった点などはありますか?

住野:チェックポイントは増えてはいても減ってはいないのではないかと思います。始まりとラストのシーンは小説を書き始める前段階からありました。

──作中で特に思い入れのあるシーンや、苦労したシーンがあれば教えて下さい。

住野:作中で思い入れのあるシーンは全てですが、あえて選ぶとすると、後藤樹里亜と高槻朔奈が出てくるインパチェンスのシーンです。モデルになってくださった綾称さんと高井つき奈さんのかっこよさに樹里亜と朔奈がちょっとでも近づけていれれば嬉しいです。

──今回のタイトル『腹を割ったら血が出るだけさ』は、文字通りにも、比喩的な意味にも、様々な解釈をすることができそうです。こういった印象的なタイトルは、どのようにして決められるのでしょうか。

住野:タイトルを決めるタイミングは様々にあると思います。例えば『君の膵臓をたべたい』は最初からタイトルだけがあったり、『よるのばけもの』は書き終わってからタイトルを決めたり。その中で今回の『腹を割ったら血が出るだけさ』は書いている最中にアイデアとして出てきたものを、最終的なタイトルとしました。実はかなり初期段階で出ていた案だったのですが、流石にグロいかなと思い担当さんに伝えないでいました。

──それでもこのタイトルに決めた理由とは?

住野:とある好きなアーティストのライブを観ている最中、この人達は自分達がかっこいいと思っていることを信じているんだなと心底感じ、自分も周囲からの評価ではなく自身の感性に従って決めようと思い、このタイトルになりました。

──今回の装画は、房野聖さん(@gumi_seijin)が担当されました。細密な花と少女のイラストが大変美しい絵ですが、住野さんの感想はいかがですか?

住野:本当に素晴らしい表紙です! 房野さんのイラストをきっかけに今作を手に取ってくださった方が何人もおられると聞きました。物語と一体のものとして素敵なイラストを細かく仕上げてくださったことに感謝の思いしかありません。

──最後に、これからどんな作品を書いていきたいですか?

住野:まだやってないことしたいです。その気持ちはずっとあります。ホラーもサスペンスもパニックものもまだまだ扱ってないテーマや要素がたくさんあるので、色んなことに挑戦し続けていきたいです。ひとまず次の一冊は、読者さんの心をキュンキュンさせてえ一心で書きました!

COLORFUL
2022年11月16,17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

双葉社

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