元BiS・綾称と作家・住野よるが語る 考えに共感できすぎて恥ずかしくなって…

対談・鼎談

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腹を割ったら血が出るだけさ

『腹を割ったら血が出るだけさ』

著者
住野よる [著]
出版社
双葉社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784575245431
発売日
2022/07/27
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

住野よる「内臓シリーズ」第2弾『腹を割ったら血が出るだけさ』、略称「ハラワタ」。その誕生のきっかけの1つとなった第2期BiSの元メンバー綾称さんと語る──『腹を割ったら血が出るだけさ』特別対談第1弾

[文] 双葉社

2015年刊行のデビュー作『君の膵臓をたべたい』で一躍ブレイクした小説家・住野よるさんが、約1年半ぶりとなる最新長編『腹を割ったら血が出るだけさ』で選んだ題材の1つが、アイドル。「この小説を書くきっかけとなった人が、2人います」。キーパーソンの1人目は、綾称さん。アイドルグループ・BiSの元メンバーだ。

なりたくてなれなかったこうなりたいと純粋に思える人

綾称:お久しぶりです。3年以上ぶりですね。

住野:文章でのやり取りはさせてもらってたんですが、お会いするのは2019年の夏以来です。以前お会いすることになった経緯をお話しすると、もともと僕は、BiSHのモモコグミカンパニーさんが本を読んでくださってるというのを読者さんから教えてもらったことで、モモコさんとBiSHを知ってめちゃめちゃハマって。そこから同じ事務所所属の第2期BiSに辿り着いたんですね。綾称さんは当時ゴ・ジーラという名前で活動されていたんですが、ライブを拝見して「ダンスがすごく大きい方がおられるな!」と。発信されてる言葉も面白くていつかお話を伺ってみたいなぁと、Twitterで僕が勝手につぶやいていたりしたんです。そうしたら、綾称さんのオタク兼僕の読者さんが繋げてくださった(笑)。

綾称:さるぼぼちゃんですよね。特典会の時にさるぼぼちゃんが「住野さんがお話ししたいって言ってたよー」って言うから、「いいよ!」って(笑)。それがご本人に伝わったみたいですね。

住野:とてもありがたかったです。次はアイドルの小説を書きたい、と考えていたわけではなかったんですよ。とりあえず綾称さんに会って、お話しを聞いてみたい。その思いだけで、わざわざ綾称さんに双葉社へお越しいただいて、担当編集さんと一緒に3時間ぐらいお喋りさせてもらいました。ありがとうございました。

綾称:こちらこそ! 当時、(第2期)BiSはもう解散していたんです。「私、何も肩書きがないですけど逆にいいんですか?」という感じでした。ただ、楽しかった思い出はあるんですけど、何を話したかは全然覚えていない(苦笑)。


左:綾称さん 右:住野よる(本体)

住野:お会いする前に、ネットで見られるインタビュー記事を一通り読んでいったんです。一般の人が思い浮かべるアイドル像とは違うというか、かなり刺激的な発言もされているじゃないですか。「どれぐらいが綾称さんの部分で、どれぐらいがゴ・ジーラの部分なんですか?」という点をがっつりお伺いしましたね。面白かったのが、同時期に、アイドルの高井つき奈さんとお話をさせていただく機会もあったんです。お2人のアイドル観が本当に全く違うんですよ。

綾称:高井つき奈さん、私も気になります。

住野:お2人をモデルにした登場人物が出てくる小説を書こう、と思ったのが『腹を割ったら血が出るだけさ』を着想するきっかけでした。この中に出てくるインパチェンスという7人組女性アイドルグループの〈後藤樹里亜〉は綾称さんがモデルで、〈高槻朔奈〉は高井つき奈さんがモデルなんです。

綾称:住野さんはそう言ってくださいますが、小説を読ませてもらってまず最初に思ったのは、「私も〈樹里亜〉みたいな人になりたかったな」って……。すごく考えが深いし、考えたうえで行動もできるじゃないですか。ガクッとものすごく落ち込んだ時も、短期間で自分を上向きに持っていける。私がなりたくてなれなかった人、こうなりたいと純粋に思える人が〈樹里亜〉でした。

住野:めっちゃ興味深いです。実は、僕が思ったのは逆なんですよ。〈樹里亜〉が成長して綾称さんになると思っているんです。

綾称さんがモデルの〈樹里亜〉は『刃牙』の〈愚地独歩〉です!

住野:3年前にお会いした時に、綾称さんから伺ったお話は小説の中にいっぱい入っています。例えば、これはネタバレなので詳しく言えないんですが、〈樹里亜〉の最後のセリフですね。第2期BiSの最後のツアーを観に行った時に、綾称さんがステージ上でおっしゃっていた「未来」にまつわる言葉がものすごく印象的でした。その時の気持ちを詳しく伺っていくなかで、ご本人が双葉社の会議室でおっしゃった言葉をほぼそのまま使っているんです。

綾称:全く記憶にありません(笑)。あんなカッコいいことを私、言っていましたか?

住野:言っていました(笑)。その言葉を終盤に置こうと決めたことで、本の内容が固まったんですよ。「その言葉で心動かされる人がいたとしたら、どんな子だろう?」というところから〈茜寧〉という高校生の女の子が生まれて、彼女が憧れる〈あい〉も生まれたんです。

綾称:確かに〈樹里亜〉のパートは読めば読むほど、考えに共感できすぎて恥ずかしくなってくる、みたいな感覚はありました(笑)。誰にも言ったはずのないことが、〈樹里亜〉のパートで出てくるんですよ。例えば、全部がウソだと単なるウソになっちゃうけど、ウソの中に真実が1個あると、ウソか本当かがわからなくなってくる。ウソで塗り固めるより真実を混ぜる方が、自分の感情も乗ってきていいんじゃないかという考え方は……「住野さんに私、この話したっけな?」と。

住野:僕の記憶が正しければ、その話は伺ってないんですよ。

綾称:やっぱりそうですよね!! 住野さん、エスパーだ。

住野:〈樹里亜〉のことを考えていたら、たまたま重なったみたいです(笑)。〈樹里亜〉は綾称さんをモデルにしているんだけれども、綾称さんをそのまま書くのではなくて、別人格として書いたんですよね。アイドルさんとして活動された方の話を聞いて、それをそのまま書くのって、小説家というよりもライターさんのお仕事だなと思ったんです。だから……イメージとしては『刃牙』の〈愚地独歩〉です。

綾称:どういうことですか(笑)。

住野:〈愚地独歩〉って空手のめっちゃ強いおじさんなんですけど、この人のモデルは実在する空手家さんなんですよ。語り継がれてるエピソードが漫画の中にいっぱい入っているんですけど、でも別人格なんです。……それです!!

綾称:(笑)


上:住野よる(本体) 下:綾称さん

インパチェンスだけを扱った短編集計画、発動!?

住野:3年前のお喋りで得た大きなものが、もう1つあります。アイドルさんたちが、ファンの方たちを大切に思う気持ちは1ミリもウソじゃないってところです。

綾称:アイドルをやっている人たちは、みんな一緒だと思います。自分を応援してくれてありがとう、と。私はただただ自分が楽しいと思うことをやっているだけなのに、むしろ感謝してもらえるんですと。本当にファンの方に恵まれていますね。

住野:僕はこの2、3年、綾称さんのインスタを追っかけたり過去のインタビュー記事などを改めて読むのと同時に、ゴ・ジーラファンである人たちのTwitterとかも追っていたんですよ。綾称さんがご結婚と出産を発表された時に、「サプライズしか飛び出してねえ」って言ってるファンの方がいて、確かにって思ったり(笑)。でも、めちゃくちゃみんな喜んでいたんですよね。この関係性って、特別なものだなぁと思うんです。

綾称:そう思います。私は今、STINGRAYというアパレルブランドのメンバーをやりつつ、まだ一度もライブしていないKASVEというバンドに所属しているんですが、この間もSTINGRAYのイベントに昔からのファンの方が来てくれて、「幸せならそれでいいよ!」って。「早く活動してよ!」とかじゃないんですよ。みんな優しいんです。ただ、さすがにそろそろ活動します(笑)。KASVEも、曲と夢だけはいっぱいあるんですよ。

住野:僕もまたステージに立たれる綾称さんを見られる日を楽しみにしています。

綾称:住野さんの今回の小説にご協力できてよかったなと思うのは、私をモデルにして書いてくださった〈樹里亜〉が、めちゃくちゃかっこいいんです。これから人生の分岐点に立った時にこの本を読み返せば、「こっちだ!」というふうにより面白い方を選んで進んでいける気がします。いい人生の指南書をいただけました。

住野:僕にとっても〈樹里亜〉と〈朔奈〉は、憧れなんです。デビューしてから7年間で出してきた本の登場人物の中で、1番かっこいいと思っているんですよね。それは、綾称さんと高井さんのおかげです。早くこの登場人物たちをみんなに紹介したいと強く思っていますね。〈樹里亜〉と〈朔奈〉が所属するインパチェンスのことも、早くみんなに知ってもらいたい。これまでいろいろなアイドルさんたちを好きになってきましたが、僕は今、インパチェンスが最推しなので、ファンを増やしたい(笑)。

綾称:私もあのグループが大好きです。考えてみれば私たち、彼女たちの最古参のファンですよね。

住野:確かに!(笑) 実はインパチェンスの7人のメンバー全員に、作中には一切出てこないサブストーリーを作ってあるんですよ。いずれインパチェンスだけを扱った短編集を出したいんです。短編ごとにメンバーを変えながら、結成から解散する日までを書きたいなと思っています。

綾称:それ、めちゃくちゃ読みたいです。でも……解散はやめてほしい!(苦笑)

COLORFUL
2022年8月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

双葉社

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