<東北の本棚>英雄たちの祖先の盛衰

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奥羽武士団

『奥羽武士団』

著者
関 幸彦 [著]
出版社
吉川弘文館
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784642084178
発売日
2022/09/13
価格
2,420円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<東北の本棚>英雄たちの祖先の盛衰

 津軽為信、最上義光、伊達政宗…。戦国を生き抜いた武将たちの事績は、郷土の誇りとして今に語り継がれている。

 ところで、これら英雄たちが活躍する前の奥州羽州のありさまは、どんなものだったのか。本書のテーマは、主に鎌倉期以降に関東などから移住した武士たちの盛衰を描くこと。彼らの物語の続きに英雄たちの時代があり、今の郷土がある。そう思えば、薄明に顔を隠した先人についても興味が湧いてくるだろう。

 たとえば葛西氏。奥州市から石巻市までの北上川中下流域と、産金地帯の気仙地方を支配した大族だ。最後の当主である葛西晴信は豊臣秀吉の小田原攻めに参陣しなかったため、家は取りつぶされ、主な家臣たちは謀殺された。

 氏族の奥州における正史と言えるものは残っていないが、諸史料から浮かび上がるものもある。関東の土着勢力だった葛西氏は源頼朝に従って平泉攻めに勲功を挙げ、奥州総奉行の地位を授けられた。南北朝期には北畠顕家に歩調を合わせ、新田義貞の友軍として足利尊氏と戦っている。本書は、葛西氏支配下の各郡に根を張った諸勢力の履歴、動向にも触れている。

 大名としての葛西氏は滅びたが、氏族と家臣団の血脈が全て絶たれたわけではない。ある者は伊達家に仕官し、ある者は帰農して土地とのつながりを保った。地元には葛西氏との関連を伝承する家庭も多いだろう。自家のルーツ探しを思い立ったときなど、本書は何らかの手掛かりを与えてくれるかもしれない。

 著者は日本大文理学部教授。本書の内容は主に県市町村史から引いたと明かしている。当の県市町村史を読めば詳細も分かるのだろうが、一つの氏族を調べるには、最低でも数冊に当たる必要がある。奥羽の42氏を網羅した本書は、研究者の熱意に支えられた労作だ。
(村)
   ◇
 吉川弘文館03(3813)9154=2420円。

河北新報
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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