<書評>『世界で最初に飢えるのは日本 食の安全保障をどう守るか』鈴木宣弘 著

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世界で最初に飢えるのは日本 食の安全保障をどう守るか

『世界で最初に飢えるのは日本 食の安全保障をどう守るか』

著者
鈴木 宣弘 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784065301739
発売日
2022/11/18
価格
990円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『世界で最初に飢えるのは日本 食の安全保障をどう守るか』鈴木宣弘 著

[レビュアー] 島村菜津(ノンフィクション作家)

◆消費者たちよ、目覚めよ!

 衝撃のタイトルに、楽観主義の私はやや辟易(へきえき)しながら読み始めた。ところが、冒頭から来たるべき飢餓時代に備えて農水省が提案した「一日三食お芋」プランに仰天である。その昔、NHKの討論番組で同席した鈴木宣弘氏が、流通が強い日本で国内生産者の収益が低過ぎると強く訴える姿に目を奪われた。その生産者びいきの訳を楽屋で探ると、三重県生まれの氏は「僕の母は元海女(あま)なんです。今はアコヤ貝の養殖をしていますが」と言ったのだった。以来、生産者側に立つ経済学者としての主張は一ミリもぶれない。

 日本は、小麦、大豆、飼料用トウモロコシの大部分を輸入に依存している。だが、コロナ禍とウクライナ戦争で、「海外から安く買う方が効率的」という食のあり様が破綻してきた。中でも飼料を海外に依存する酪農家は危機的状況に追い込まれている。氏は、それでも、脱脂粉乳やチーズが大量に輸入され続ける現状を批判し、国内で禁止された成長促進剤が使われた牛や豚の肉が、サンプル検査の網の目を潜(くぐ)り抜けていることを大いに危惧する。

 そして、元農水官僚の氏は、「日本政府が農業を軽視する背景には、アメリカの意向がある。アメリカ政府は多国籍企業の意向で動いている」と言い切る。農を犠牲にし自由化に貢献したことで、自動車業界へ天下りした官僚や、イモの輸入自由化に抗(あらが)って左遷された官僚の逸話は生々しい。また、飼料が高騰した畜産業の救済の助成金四千億円のうち、酪農家に入ったのは百億円という事実には、すぐに捜査の手が入ることを望む。

 ネタバレになるから書けないが、防衛費を倍増するなら、先にやるべきことがあるだろう! という、その解決策としての予算案には、多くの人々が深く頷(うなず)くことだろう。

 『WTOとアメリカ農業』『食の戦争』と、敢(あ)えて“煽(あお)ること”を止(や)めない氏の本作もまた、このままではいかんというポジティブな怒りをそそる。行間から聞こえてきたのは、日本の消費者たちよ、目覚めよ! もっと子供たちを養う食と農に関心を抱き、選挙に赴こう! というメッセージである。

(講談社+α新書・990円)

1958年生まれ。東京大大学院農学生命科学研究科教授。『食の戦争 米国の罠に落ちる日本』など。

◆もう1冊

久松達央著『農家はもっと減っていい 農業の「常識」はウソだらけ』(光文社新書)

中日新聞 東京新聞
2023年1月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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