「生々しい私の大学生活です」宮田愛萌が初小説に反映させた実体験を明かす【宮田愛萌×三宅香帆対談】

対談・鼎談

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きらきらし

『きらきらし』

著者
宮田 愛萌 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103549413
発売日
2023/02/28
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

万葉集を愛する二人の多すぎる共通点

[文] 新潮社

「アイドル」と「バレエ」の共通点


(1)安倍文殊院の善財童子(右)と(C)熊木優

三宅 『きらきらし』の五話の中では、「ハピネス」がすごく好きでした。私の友達がバレエをやっていて、バレエをする女の子に憧れがあって。「ハピネス」には、女の子による女の子への憧れっていうのがすごく詰まっている感じがしました。お話の中ではもう少し恋愛に近い感じだと思うんですけど、女の子が女の子をいいなって思う感情って、メジャーな割に適切に言語化されているものって意外とないので、そういう意味でわかる!と思いながら読みました。

宮田 「アイカツ!」っていうアニメで主人公の女の子が先輩の女の子に憧れているのを、「それって恋みたいな気持ちだね」と言われるシーンがあって、憧れって恋みたいな気持ちなんだ、と思っていたのが元になっていて。

三宅 それこそ女の子のアイドルを見ていても、世間でよく言われるような女の子同士がバチバチするだけじゃない気持ちって絶対あると思います。恋みたいな感覚、いい言葉ですね。

宮田 それから自分の体を使って高めていくところが、アイドルとバレエとで似ているなと思います。

三宅 あとこれは「ハピネス」だけでなく、全体的に愛萌ちゃんの人としての真面目さみたいなものがちりばめられている印象を受けました。どのキャラも真摯というか、あんまり外に出さずに内側で周りの人のことをいろいろ考えてる感じが、愛萌ちゃんぽいと感じました。「ハピネス」の希南は欲しいものを手に入れるけど、全て手に入れてハッピーなわけでもない。そういう真面目さと切なさのバランスが愛萌ちゃんの世界観ぽかったです。

宮田 小学生の頃からの親友が、「ハピネス」を読んで「めっちゃ愛萌じゃん」って言ってました。

三宅 最後の「つなぐ」では万葉集の故地を巡るところがありましたけど、実際に回られたんですか。

宮田 元々プライベートで奈良の万葉文化館とかに行こうとしていたら、写真の撮影が奈良でちょうどいい!と。撮影では時間の関係でゆっくり巡ることはできなかったので、グーグルマップを参考に書きました。

三宅 私、日記の話を読むのが好きなんで、すごくよかったです。万葉集自体も歌日誌の部分があるから、最後が日記で終わるのが万葉集っぽさもあるしいいなと。

宮田 日記って自分しか読まないものだから、余計に思いが詰まっている気がします。日記の文章の中でどこをひらがなにしてどこを漢字にするのかとかで、その人の性格が出る。

三宅 あとは「坂道の約束」で近現代の文学も少し出てきて、近現代までカバーしている!と思いました。

宮田 近現代はあんまり得意じゃないんですけど、高校生のときに文豪の肖像画のものまねとかして遊んでいました。他にも、高校の体育祭で友達四人と四天王像のポーズで集合写真を撮って、私は多聞天で。そんな仏像のものまねもずっとしていて、今回の撮影でもしました(笑)。安倍文殊院でこの子(写真(1))をまねて一緒に撮ったんです。仏像雑誌の表紙にもなっている、仏像界のアイドルらしいんですよ。

三宅 かわいい! 奈良で撮影した写真も、小説とリンクしていていいなと思いました。私は友達とLINEの絵文字二つで文学作品を表すって遊びをしていました。人が走る絵文字と麦の絵文字で、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』とか。あとは友達と自転車で二列で走っていて、前から人が来て二手に分かれなきゃいけない時に「瀬を早み~」って言いながら漕ぐとか。

宮田 友達とのその感じ、すごくわかります。

三宅 どんどん文学に日常が侵食されていきますよね。でも、万葉集はそれこそ現代的な日常の感覚とすごく近しいところがあると思います。『きらきらし』の話はどれも身近なんだけど、遠くにも思いを馳せられるところがすごくよかったです。友達から聞く話ぐらいのテンションで読めるけど、実はすごく普遍的な感情が描かれている。短編集だから、最近小説を読んでないなという人も読みやすいと思うし、読んでみてほしいなって思いますね。

宮田 ありがとうございます。万葉集もそうですし、日本文学に興味がある人が読んだら「あっ」と思うところを今回たくさん入れていて、日本文学って面白いんだというのを少しでも伝えられたらいいなと。その一歩としてこの本を軽い気持ちで読んでほしいです。ひとつひとつは短いので、普段読書しない方でも読めると思います。読書の入門編としてぜひ!

三宅 本を出してくれるのは、いちファンとしても嬉しいです。

宮田 私も実は、三宅さんのnoteを読んでいて。面白いです!

三宅 えっ! めっちゃびっくりしました。変なこと書いてないといいな。

新潮社 波
2023年3月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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