『ケチる貴方』石田夏穂著(講談社)
[レビュアー] 宮部みゆき(作家)
本書は、会社勤めの女性を主人公にした短編二作を収録している。表題作の「貴方(あなた)」は主人公本人の身体の代謝機能のことだ。どれほど努力しても一向に冷え性を改善してくれない自分の代謝機能を、主人公は「ケチだ」と詰(なじ)る。しかしある認識をきっかけに、彼女の体質は正反対の方向に舵(かじ)を切ることに――。
二つ目の「その周囲、五十八センチ」の五十八センチは、脚の太腿(ふともも)の太さである。主人公の「私」は言う。
「脚が太いと、人生はものすごく難易度が上がる」
本欄の読者の皆さんは、この一文に触れて、これまで自分が言語化できなかったことを一行で表してくれた作者のセンスに感激する派と、全然ピンとこない派の二つに分かれると思う。私自身は前者だ。よくぞ書いてくださった!
悲しいほどままならぬ、自分の身体とその機能。そのために苦しんだり悩んだりするのは、単純な外見至上主義とはまったく違う。その理不尽の軋(きし)みが生み出す傷心と絶望と残酷なほどささやかな希望を、この短編は余さずすくい上げている。明るい滑稽味をまぶしながら。