『私のものではない国で』温又柔著(中央公論新社)
[レビュアー] 池澤春菜(声優・作家・書評家)
国や国籍、母国語、母語は自分の根っこのようなもの。それがあるからこそ安定もするけれど、それがあるからこそ身動きが取れないこともある。だけど普段、わたしたちは、根っこのことを考えないで生きている。地面の中は見えない。
温さんの小説やエッセイは、自分の根っこの存在に改めて気づかせてくれる。
在日台湾人ではなく台湾系日本人。台湾出身、でも日本語で考え、日本語で生きる作者が日常の様々な場面でぶつかる、生まれと育ちと文化、国と国籍にまつわる段差。その段差の内側はきっと安心できる居心地のいい場所。そこにいる限り、段差の向こうで戸惑っている人、傷ついている人は見えない。だけどその段差は「ここはわたしたちの場所」「入らないで」と誰かを閉め出すものでもある。
エッセイや対談、書評、ドラマや映画のレビュー、旅行記。繰り返し語られる、こことそこの間に線を引くことの危うさ、見えなくされてしまう人たち、「普通」という言葉の怖さ。
「痛みを引き継がずに、前向きに次世代にバトンを渡していくこと」を考えはじめよう。