『文系でも思わずハマる 数学沼』
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美しいものと数字の不思議な関係性。パルテノン宮殿もミロのヴィーナスも「黄金比」が現れている!
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
著者によれば『文系でも思わずハマる 数学沼』(鶴崎修功 著、マガジンハウス)は、大きく分けて3つの視点から「数学の世界」を紹介しているのだそうです。
まずは、「数学って面白い!」です。私が「数学沼」にハマったきっかけでもありますが、数学や数字にまつわるエピソードはどれも興味深いものばかりです。
たとえば、松ぼっくりやミロのヴィーナスに共通して表れる「美しさを示す比率」など、私たちの身の回りにはさまざまな「数字の秘密」が隠されています。
(中略)
2つ目は、「数学って役に立つ!」です。数学的な考え方を知っておくと、仕事や日常生活でちょっとした武器として使うことができます。たくさんのものを漏れなく数えるための「1対1対応」や、料理や仕事のプロセスを効率的にする「フローチャート」など、知っておくと便利な考え方がいろいろあります。
(中略)
3つ目は、「世界は数学でできている!」です。実は、数学がなくては私たちの生活は成り立ちません。インターネットでやり取りされているデータは「素因数分解」で守られていたり、桜の開花予想には「微分積分」の「積分法」が使われていたりなど、世の中のありとあらゆるものに数学が関わっているのです。(「はじめにーー“美しくて、楽しくて、深い”数学の世界」より)
きょうはChapter 1「身近に隠れる『数字』の秘密」内の「美しさは『数字』で表せる」のなかから、いくつかのトピックスを抜き出してみることにしましょう。
古代から数学者を魅了してきた「黄金比」
たとえば鳥取砂丘で一面に広がる砂丘を見ているとき、砂の美術館で精緻につくられた砂の彫刻作品と出会ったとき、あるいは中国地方最高峰の大山の頂上から雄大な自然を眺めているときなど、私たちはさまざまな場面において「美しい」と感じるものです。
つまり、目の前にあるものや風景の「なにか」が感情に訴えかけているわけです。しかし著者によれば、この「なにか」を数学的に説明できる場合があるのだとか。意外な気もしますが、「数学」と「美しさ」には、意外な結びつきが隠されているというのです。
みなさんは「黄金比」をご存知でしょうか。黄金比は、「人間が根源的に美しいと感じる比率」だと言われています。
この比率は図形や自然界においてふいに現れるため、古代から数学者たちを魅了してきました。黄金比は整数に換算すると約5:8になります。(28〜29ページより)
たとえばギリシャの哲学者で数学者でもあったピタゴラス(紀元前582ごろ〜496ごろ)がつくった宗教学派であるピタゴラス教団が、そのシンボルとして「五芒星(ごぼうせい)」を掲げていたのは有名な話。
この五芒星とは正五角形の対角線で形づくられる星形のことで、1辺を1とすると、対角線の長さは黄金数φになるのだといいます。つまり、正五角形の辺と対角線の長さの比は黄金比になっているわけです。(28ページより)
「ミロのヴィーナス」はなぜ美しいのか?
黄金比が現れているものとして有名なのは、ギリシャの「パルテノン神殿」や「ミロのヴィーナス」。
まずパルテノン神殿は、横と縦の比率が黄金比になっているといわれています。そしてミロのヴィーナスは、足元から頭頂部までの長さと、足元からおへそまでの長さの比、また、おへそから頭頂部までの長さとおへそから顎の下までの長さの比が、φ:1という黄金比になっているといわれているのです。
ただしこれは、「長方形の縦の長さと横の長さの比が黄金比になるとき、人は美しいと感じる」という説からきたもの。そのためパルテノン神殿やミロのヴィーナスに隠された黄金比は、後づけだともいわれているようです。
とはいっても、とくにヨーロッパにおいては古くから、縦と横の長さが黄金比となっている長方形はもっとも美しいと考えられているそう。パリの凱旋門やレオナルド・ダヴィンチの「モナ・リザの微笑」など、建造物や芸術作品に多く取り入れられてきたことは事実であるようです。(30ページより)
黄金比と「フィボナッチ数列」の不思議なつながり
黄金比は自然界とも密接に関係しており、黄金比と関係が深い「フィボナッチ数列」が自然界でよく現れるのだといいます。
フィボナッチ数列とは「1、1、2、3、5、8、13、21……」のように、1と1で始まり、前の2項を足すと次の項になるという単純なルールに基づいて作られる数列のことです。
その名は、イタリアの数学者レオナルド・フィボナッチ(1170頃〜1250頃)に由来します。フィボナッチは「ウサギの増え方」を観察し、この数列を見つけたと言われています。(31ページより)
では実際のところ、黄金比とフィボナッチ数列はどのように結びついているのでしょうか?
フィボナッチ数列を縦に並べて、上下に並んだ数字の比を見ていくことにしましょう。1÷1=1、2÷1=2、3÷2=1.5、5÷3=1.666、8÷5=1.6……といった具合に計算していくと、ある数にだんだん近づいていくことが確かめられます。その数こそが、1.618033……すなわち黄金比φなのです。(32ページより)
書籍より、ライフハッカー編集部作成
自然界に現れるフィボナッチ数列の代表例としては、パイナップルや松ぼっくり、ひまわりなどがあるそうです。
たとえば松ぼっくりを根本から見て、松かさの並びの渦の本数を数えると、時計回りで13本、反時計回りで8本になり、8と13というフィボナッチ数が現れていることがわかるというのです。(31ページより)
有名な数学者たちの変人っぷりを示すエピソードなども紹介されているため、とても親しみやすい内容。数学に苦手意識を抱いている方も、これなら無理なく入り込むことができそうです。
Source: マガジンハウス