『ヤバい統計 政府、政治家、世論はなぜ数字に騙されるのか』ジョージナ・スタージ著

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ヤバい統計 政府、政治家、世論はなぜ数字に騙されるのか

『ヤバい統計 政府、政治家、世論はなぜ数字に騙されるのか』

著者
ジョージナ・スタージ [著]/尼丁千津子 [訳]
出版社
集英社
ISBN
9784087370034
発売日
2024/01/26
価格
2,640円(税込)

『ヤバい統計 政府、政治家、世論はなぜ数字に騙されるのか』ジョージナ・スタージ著

[レビュアー] 佐藤義雄(住友生命保険特別顧問)

データ重視 潜む危険性

 政治、行政ではデータに基づく政策、企業ではDX経営が必要だとされ、報道でもデータが多用されている。

 だが、データやその解釈が正確でなく、偏っていたり何らかの意図でねじ曲げられたりしていることも数多く報告されている。データの重要性が一層高まっている反面、上記のような危険性が存在することが問題である。データの利活用に基づく政策決定やビジネスの計画や実行、報道には慎重な態度が必要なのだ。著者は英国下院に所属する統計学者で統計に関する議員からの問い合わせに対応する職務に就いている。理論と現実に精通しデータの問題を語るにふさわしいエキスパートであるといえよう。本書は問題のあるデータの収集、利用、解釈や十分な検証を欠いたアルゴリズムとモデル作りにより生じた好ましくない事例を数多く紹介する。英国の例に基づくものが多いが世界に共通する論点も多く日本の読者にとっても参考になる。

 中でも、ブレグジットの際に国民の投票行動に影響を与えた移民統計調査において盲点があったこと、コロナ禍の時には感染者のカウントの仕方が各国で違い国際比較が困難だったことなどデータ取り扱いへの指摘が興味深い。データを利用するアルゴリズムとモデルはブラックボックス化の問題があり、注意深い作成プロセスやチェック、フィードバックがないと問題のある結果を生ずるという警告も示唆に富む。

 データの誤用や不正操作は判断に重大な誤りをもたらすが、人間が介在する以上、これらの問題は今後も発生することが避けられない。それを防ごうと一人一人がデータの専門家になる必要はもちろんないが、常に好奇心を持ち権力者や高い専門性を持つ人々に説明を求める態度を保つことで危険性を少なくできるはずだと著者はいう。そのためにはデータに関する基本的な知見が必要だ。本書はそれを学ぶのにうってつけの一冊である。尼丁千津子訳。(集英社、2640円)

読売新聞
2024年3月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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