「やめないこと」が成功の秘訣は思い込み? 正しく「やめる」人に学ぶ人生戦略の書

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QUITTING(クイッティング)やめる力

『QUITTING(クイッティング)やめる力』

著者
ジュリア・ケラー [著]/児島修 [訳]
出版社
日経BP 日本経済新聞出版
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784296116560
発売日
2023/05/19
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「続ける」から負ける 勝つには「止める・辞める」

[レビュアー] 林操(コラムニスト)

「重いコンダラ試練の道を 置かれた場所で咲きなさい」が国歌の歌詞だった根性立国ニッポンでも、今や、やめる(クイット)ことのハードルはダダ下がり。武士道系精神論の保護区だった筋骨偏重(スポーツ)の世界でもプロなら移籍が日常茶飯事だし、スポーツとは対極にある学歴偏重(かすみがせき)界隈でさえ、昭和の昔からキャリアは定年を待たず天下り三昧で、このクニ、実は“やめ大国”。今さら米国のモノ書きから、人生のあれこれの止め方・辞め方についてご高説たまわらなくてもねぇ。

 ―と思いつつ、ページを繰るのをやめられなかったのは、あれこれやめ続けてきた己のこれまでを正当化したいとか、これからもやめ続けるためにもっといいやめ方を知りたいとか、そういう助平根性があったから。そして、助平根性万歳! 目標2つが見事達成できたうえ、濃い読書体験まで得られました。

 版元が日経新聞系だわ、副題に「戦略」とあるわ(原著でも)ゆえ、仕事人間(ビジネスパースン)限定自己啓発物件ではないかとお疑いのアナタにもお薦めします。なにせ、あのナポレオン・ヒルからして批判の対象で、その罪状は“やめないことが成功の秘訣”という思い込みの拡散浸透により多くの無辜の民に報われぬ努力を強いて未達成感を植えつけたことだからね。

 生物にとって元来、やめることは生存に不可欠であることの紹介に始まり、ダーウィン、エジソンから21世紀のスターまで、有名人から市井の人まで、やめてよかった成功例から、やめなくて陥った失敗例まで、ケーススタディも山盛り。移住転職離婚性転換その他いろいろの先進国であるはずの米国で根性(グリット)文化が根強いこと、それでもやっぱり“正しく”やめる人がたくさんいることを知ると、ニッポン、やっぱりまだまだ戦勝国に学ぶことは多いなぁと。

 小説も書くという著者の語り口がまた巧みゆえ、読中読後、アレやめよう! コレやめよう! と思い立っちゃうので、ご用心を。

新潮社 週刊新潮
2023年7月6日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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