「なぜ学ぶのか」「食の意味とは」食、学び、家族を描くあたたかな連作集たち

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「なぜ学ぶのか」「食の意味とは」食、学び、家族を描くあたたかな連作集たち

[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)

 伽古屋圭市の文庫書き下ろし新作『クロワッサン学習塾』は、食、学び、家族といったテーマを盛り込んだ、あたたかな連作集だ。

 神奈川県の三浦半島、横須賀市に隣接する町の住宅街。小学校の教員を辞めて息子を連れ、この町の実家に戻った黒羽三吾は、父が営むパン店、クロハ・ベーカリーで働き始める。ある時、店で万引き騒動を起こした少女が学校の宿題で悩んでいると知り、面倒を見始めた三吾は店のイートインコーナーで無料の学習塾を開くことを思いつく。

 三吾だけでなく小学生の息子をはじめ少年少女の視点も挿入され、大人、子どもそれぞれの成長が見えてくる。子どもたちが夏休みの自由研究でパンづくりに挑戦するなどこの舞台ならではの要素でも楽しませる。

 三吾と子どもたちとの会話で印象に残るのが、「なぜ学ぶのか」といった疑問や、「将来の夢や目標を語る時たいてい職業の話になるが、もっと自由に発想してよいのではないか」といった提案だ。詭弁を使わず本音を交えた三吾の言葉にうなずくことしきり。

 伽古屋圭市の著作には『かすがい食堂』(小学館文庫)というシリーズもある。祖母が営む駄菓子店を継いだ二十代の楓子が、夜勤の親にもらった夕食代で菓子を買いにくる少年と出会ったことを機に、店の奥でごく限定的な子ども食堂を開くようになる。善行を施そうというより、子どもたちと一緒に“食の意味”を模索していく楓子の姿勢には気づかされることが多い。著者がミステリー作家なだけに、子どもたち一人一人の事情を探る過程に謎解きの要素も。

 行成薫『本日のメニューは。』(集英社文庫)は地方都市を舞台にした、飲食店をめぐる連作集。おむすび専門店の女性と、母の料理がマズすぎてこっそり店に通う女子高校生、お客を満腹にさせるのが喜びの食堂店主と大食いの青年客、脱サラしてキッチンカーを始めたいと言い出す夫と葛藤する妻……。個性豊かな人々が登場、これが実に笑わせ、泣かせる内容。続篇『できたてごはんを君に。』(同)とあわせてどうぞ。

新潮社 週刊新潮
2023年7月6日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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