『これまでの仕事 これからの仕事 ~たった1人から現実を変えていくアジャイルという方法』
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これまでの仕事やり方に行き詰まりを感じたら、変化を柔軟にとらえる「仮説検証」5つの手順
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
長らく日本の組織を支えてきた仕事のやり方や考え方が、組織を取り巻く社会や環境、顧客に対応できなくなっている。
正解ありきで計画を綿密に立て、そのとおりに実行し、実行できているかどうかを計画に照らし合わせて管理者が進捗を確認し、その担保をおこなうという昔ながらの仕事の常識が通用しなくなってきている。
『これまでの仕事 これからの仕事』(市谷聡啓 著、技術評論社)の著者は、そのように指摘しています。だとすれば、職場や現場に必要となる仕事の考え方、取り組み方とはどのようなものなのでしょうか?
その手がかりは「ソフトウェア開発」にあると私は考えています。
ソフトウェア開発は、その他に比べて先んじて「捉えどころのない顧客の期待、求めるもの」に向き合ってきた世界です。そうした状況下で育てられてきたのは、臨機応変に、適時適切に判断と行動を取るための実践知です。(「はじめに だれかが変えるのをただ待ち続けるほど、人生は長くない」より)
先達がすでに築き上げてきた知恵があるなら、その上に乗って仕事をすればいい。肩を借りて、前に進めばいい。過去の知恵を現状にうまく適用できないのであれば、そこから先は自分の足で歩いていけばいい。つまり最高の仕事術とは、自分で仕事の方法自体を生み出すことだという考え方です。
著者は、ソフトウェア開発のあり方を変えていった「アジャイル(仕事における変更やニーズの変化に機敏に対応していく能力)」という概念、方法に20年以上取り組んできたという人物。
そうした実績に基づき、本書ではソフトウェア開発が培ってきた適応的な仕事の術を明らかにしているわけです。もちろんそれは、ソフトウェア開発に限らず、あらゆる仕事に適用できるものでもあります。
きょうは第2章「目先の効率から、本質的な問いへ」内の「問いを立てるのと同時に、その問いに答えるための『プロセス』を取り入れよう」に焦点を当ててみます。情報が足りなくて効率的に仕事を進められない場合は、「仮説検証」を仕事のプロセスに取り入れるべきだというのです。
1:問いを立てる
仕事を始める最初の段階では、「なぜやるのか?」を根本から考えるべき。
そして、そうした問いを講じるにあたっては、5W1H(WHEN、WHERE、WHO、WHAT、WHY、HOW)をベースにすることが大切。5W1Hは古くから利用されてきた定番の観点ですが、だからこそ基本として持っておいたほうがいいというのです。
たとえば、新しいサービスや商品の提供によって何かしら課題解決を図っていくような場合は、次の問いを持っておくといい。
・提供サービスや商品は有用か?(価値や意味があるか?)
・提供サービスや商品に継続性はあるか?(長く必要とされるか?)
・提供サービスや商品に広がりはあるか?(価値を広げられる可能性はあるか?)(63ページより)
サービスや商品の提供であれば、「有用かどうか」だけではなく、継続性や可能性についての観点も見ておく必要があるということです。(58ページより)
2:問いに答えるための仮説を立てる
立てた「問い」に対して、いきなり確かな答えを返すことは難しいもの。その理由は、答えるための情報が不足しているからだといいます。そこで必要となるのは、その時点で得られている情報から、“いったんの答え(仮説)”を立ててみること。
ただし当然のことながら、そのままでは不確かな状態です。仮説のまま物事を進め切るわけにはいきませんから、以後は仮説の真偽を確かめるために検証を行う必要性が生じるわけです。(62ページより)
3:仮説を検証するためのプランを立てる
検証プランを立てる際には2つの観点を持ち、検証手段を選ぶようにするべきだそう。
(1)可能な限り効果的な手段を選べているか?
できる限り、実際の利用状況、条件の下で試してもらうことで、有用かどうかの判断を行うということ。
(2)可能な限り早く結果が得られる手段を選べているか?
効果的で、かかる時間を最小限にできる検証法を、可能な限り探すべきだということ。(65ページより)
4:検証を実施する
検証の実施段階においては、2つの要点があるといいます。
(1)検証活動を記録し、保全する
検証をやりっぱなしにしないということ。「なにを実施し、どういう結果が得られたのか」について記録を残しておくわけです。
(2)検証実施中にふりかえりをおこなう
検証の方法自体を、適宜改善するということ。たとえばインタビューを行う場合であれば、10人の話を聞き終えてから改善が必要か検討するのでは遅すぎ。1人目の話を聞き終えた段階で、実施にあたっての課題がなかったか点検する必要があるのです。(68ページより)
5:結果を確認し、理解を得る
検証を終えたら、最初に立てた仮説を端的に評価することも大切。
・前提に間違いはなかったか?
・前提として言えることは何が増えたか?
・仮定は真として評価できるか?
・期待する結論は成り立つか?
(69ページより)
このように、結果と照らし合わせながら仮説をていねいに確かめていくということ。その結果、仮説が成り立たないと判断したなら、最初の仮説は棄却。ふたたび仮説を立てるところから始めるか、あるいはテーマ自体の見なおしを行うわけです。(69ページより)
いま現場で四苦八苦している方々に向け、自身が培ってきたメソッドを伝えたいと著者は考えているようです。そんな考えを軸とした本書は、仕事を続けていくうえでの指針となってくれるかもしれません。
Source: 技術評論社