木曜ドラマ「ハヤブサ消防団」の制作の裏側を聞く! 原作者・池井戸潤さんとテレビ朝日プロデューサー・飯田サヤカさんが対談

対談・鼎談

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ハヤブサ消防団

『ハヤブサ消防団』

著者
池井戸 潤 [著]
出版社
集英社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784087718096
発売日
2022/09/05
価格
1,925円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

木曜ドラマ「ハヤブサ消防団」の制作の裏側を聞く! 原作者・池井戸潤さんとテレビ朝日プロデューサー・飯田サヤカさんが対談

[文] 集英社

第9回 池井戸潤さん(作家)が飯田サヤカさん(ドラマプロデューサー)に会いに行く

小説を読んだ後に楽しみになるのが、作品の映像化。この世界、ドラマならどんなふうに見せてくれる?――そこで試されるのが、ドラマプロデューサーの腕力です。
作家・池井戸潤さんが信頼するヒットメーカーが、テレビ朝日の飯田サヤカさん。
作家とプロデューサーの関係とは? そして、7月13日放送開始となる木曜ドラマ「ハヤブサ消防団」(テレビ朝日系)の見どころは。熱気あふれる収録スタジオを訪ね、お聞きしました。
撮影/大槻志穂 構成/大谷道子 (2023年6月21日 六本木にて収録)
 


ドラマ「ハヤブサ消防団」の撮影セットにて。左:池井戸潤さん、右:飯田サヤカさん

 
「深夜枠なら『民王』があるよ」6年間粘って実現した大ヒット

 
池井戸 本日はお邪魔しました。消防団の面々が居酒屋に集うシーンを拝見しましたが、皆さん、息がピッタリでしたね。
 
飯田 お越しくださり、ありがとうございました。このチームは初日から、ずっとああいう感じなんですよ。主人公の作家・三馬太郎役の中村倫也さんを中心に、消防団メンバーを演じる満島真之介さん、岡部たかしさん、梶原善さん、橋本じゅんさん、生瀬勝久さん、そして太郎の担当編集者役の山本耕史さんまで、「これSeason3か?」っていうくらいの仲のよさで。
 
池井戸 スタジオでは、僕の誕生日祝いまで。消防団の法被を着せていただいて一緒に写真を撮ったんですが、ズラリと並んだ俳優さんたちの中に入るのは、さすがに気が引けたなぁ。
 
飯田 アハハ! 皆さん、喜んでいましたよ。
 
池井戸 飯田さんとは飲み会ではよく会っていますが、こうして表でお話しするのははじめてですね。
 
飯田 もちろんですよ。先生と2人だなんて、おこがましくて……。最初にお会いしたのは2009年、やはり飲み会の席だったんですが、自己紹介がてら「うちに金曜ナイトドラマという深夜のドラマ枠があるんです」とお話ししたら、「僕の作品で深夜向きといえば、『民王』っていうのがありますよ」と言ってくださって。
 
池井戸 当時、ちょうど連載中だったのかな。

飯田 そうですね。仕事柄、注目されている小説やコミックは読むようにしていますが、ご縁をいただいた池井戸潤さんの、しかも最新作ということで、すぐに読みました。他の作品にはない弾けたバカバカしさと……。
 
池井戸 すみません、バカバカしくて(笑)。
 
飯田 とんでもない! ブッ飛んだ面白さに加えて絶妙に風刺が効いていて、ああ、これはぜひやらせていただきたいと。ところが申し訳ないことに、それから6年もの間、なかなか企画を成立させることができず、2015年の7月期にようやく枠が取れたんです。
 
池井戸 6年間もGOサインが出なかったら、普通、諦めますよね。それを粘り続けたのは、すごいことですよ。
 
飯田 フフフ、しつこいんです、私。おかげさまで『民王』は、本編、翌16年に放送したスペシャルとスピンオフ、番外編まで作ることができました。
 

 
池井戸 首相親子を演じた遠藤憲一さん、菅田将暉さんに加えて、秘書役の高橋一生さんも大人気でした。
 
飯田 『民王』は遠藤さん、菅田さん、高橋さん、そして官房長官役の金田明夫さんの4人の結束力がすごくて、皆さん、「絶対に面白いものを作ろう!」と意気込んでいました。キャスティングはとてもワクワクする仕事で、ほかのプロデューサー仲間に訊いても、皆がいちばん楽しいと言いますね。個人的には、その時点ですでに大スターになられている方だけでなく、なるべくなら、絶対にいいものを持っていてやる気もあるけれど、その魅力にまだ大勢の人が気づいていない方々とご一緒するようにしています。作品に賭ける思いが、すごく熱いので。
 
池井戸 そういうものは、絶対に画面からも伝わりますよね。
 
飯田 ええ。今回の『ハヤブサ消防団』にも、あのときと同じようなムードがあり、皆さんのモチベーションがとても高いんです。主演の中村さんは、以前、私が参加した『ホリデイラブ』(2018年放送)でサイコパスなモラハラ夫の役をやっていただいたんですが、抜群に芝居がお上手。今回の太郎は、すごくフラットでプレーン、どちらかというと受け身のキャラクターですが、思考が明晰でありながら朴訥としたイメージがぴったりだと思ってオファーしました。即座に「やりたい」というお返事をいただけて、うれしかったです。
 
池井戸 中村さんは以前、僕の別の原作ドラマに出てくださったんですが(『下町ロケット』2015年放送・TBS系)、いい演技でした。今回も本物の作家と思えるくらい自然に見えます。
 
飯田 太郎は、ほぼ出ずっぱりなんですよ。消防団の活動、住まいである〈桜屋敷〉での執筆の様子、川口春奈さん演じるヒロイン・立木彩との場面、山本さん扮する編集者とのやりとりなど、すべてが彼を中心に回っているので。だから、中村さんの撮影スケジュールも相当過酷なんですが、一度も台詞が入っていないことがなくて、いつでも完璧。「だってプロだから、当たり前じゃん?」という感じで、サラッとクオリティの高い仕事を置いていかれます。相当な職人肌なのだろうなと思います。
 
池井戸 へえーっ。あと、僕の作品にはとにかくおじさんがたくさん登場するので、適任の方を探すのが大変だったんじゃないでしょうか。
 
飯田 そうですね。「おじさん! おじさん!」って、もう血眼で(笑)。今回話の中心となる皆さんは舞台を中心に実力を発揮されていて、共演の機会も豊富なメンバー。もともとの絆が強固なうえに、「俺たちがいるんだから、絶対に面白くなる」という自負をしっかりお持ちなので、実に頼りがいがあるんです。
 

ヒットメーカーには、原作者の見えない可能性が見えている

池井戸 楽しみですね。これだけいいキャスト、いいスタッフが揃っているんだから、僕が口出しすることなんて、まったくない。全部、飯田さんにお任せです。
 
飯田 いえいえ! ロケーションのことや、作家のお仕事周りのことなど、いろいろとアドバイスをいただいて……でも今回、最初に先生から届いたメッセージには、びっくりしましたけど。
 
池井戸 何だったっけ?
 
飯田 “川柳”ですよ!
 
池井戸 ああ。「ハヤブサは 好きにやってね よろしくね」か。
 
飯田 原作者の方から川柳が送られてきたのなんて、はじめてです(笑)。
 
池井戸 だって、もう『民王』をあれだけ成功させてくれたんですから……。実績は、すごく重要ですよ。作品の映像化に際してはいろいろな方にお会いしますが、お話ししているだけではやっぱりよくわからなくて、とにかく1回、作っていただかないと。で、うまく作る人というのは、絶対に次もうまく作るんです。
 
飯田 そんなにハードル上げないでくださいよ〜。
 
池井戸 ハハハ。それは、会社の経営と同じなんですよ。たとえば、一流の企画書を出してきた二流の経営者と、二流の企画書を出してきた一流の経営者ならどちらに金を出すか? とすれば、経営学的な答えは、絶対的に「一流の経営者」なんです。
 
飯田 へえーっ、そういうものですか。
 
池井戸 企画書は練り直せばいくらでもよくなりますが、経営の手腕の差はいかんともしがたい。それはもう、才能に等しいものですから。経営者でもドラマのプロデューサーでも、ヒットメーカーというのは歴然と存在するもので、一度ちゃんと実績を上げられた人は、それなりの何かを必ず持っているはずです。だから、新しい作品をお預けしても大丈夫。飯田さんには、『ハヤブサ消防団』についても、きっと僕には見えていない何かが見えているんだろうという予感がしています。

都会にはない景色と人情。現代人が求める要素が詰まった作品

飯田 ハードルを上げられるだけ上げられて、私もう、ナメクジみたいに溶けそう……。でも、『ハヤブサ消防団』って、本当に現代的な要素が詰まった作品だと感じているんです。コロナ禍を経て東京から地方へ人々が移住する動きが増えたこと、それから、分断社会で都会の人間関係がますます希薄になっている中、消防団という土着的な……。
 
池井戸 そうそう、土着(笑)。
 
飯田 いや、アナログで温かみのある人間関係があって……。「俺たちがこの町を守るんだ!」という、人々の生きる原点のような思いが描かれていて、それが都会の孤独と対比するとすごく魅力的に映ります。「この村には何かが埋まっている」というイントロから謎を掘っていく、“村ホラー”の魅力もありますよね。
 
池井戸 原作は半ば過ぎまで、すごくのんびりした話なんですけどね。
 
飯田 そうですね。太郎の田舎暮らしを綴ったのどかな物語だと思っていたら、急に予想外の事件が起きて、怒涛の展開に巻き込まれて……。『民王』とはまた違った意味で、ほかにはない作品だなということを、たぶん小説を読んだ多くの方が感じていらっしゃるんじゃないでしょうか。
 
池井戸 まだ写真でしか拝見していないんですが、ロケ地もいいところだそうですね。
 
飯田 けっこうあちこち探しました。山と田んぼ、それと滝と……。でも、頑張ったぶん、すごくいい風景が撮れまして。幸い晴天にも恵まれたので、放送では抜けのいい田舎の景色を楽しんでいただけると思います。〈桜屋敷〉は築200年の古民家の空き家なんですが、太郎の部屋、素晴らしいですよ。
 
池井戸 いいですね。買ったら?
 
飯田 買えません、先生が買ってください!(笑) そういえば、脚本に先生からのチェックがもっとも入っていたのは、方言の部分かもしれませんね。作品の舞台となったのは、何といっても先生の地元・岐阜ですから。
 
池井戸 岐阜の方言は、僕の出身地と都市部で違ったりしますからね。書き言葉にするとそう違いがないんですが、イントネーションがこれまた難しくて。
 
飯田 お忙しいのに方言監修までしていただいて、すみません(笑)。今回、脚本を執筆されたのは、『ドクターX〜外科医・大門未知子〜』(2016年放送の第4シリーズより)などを手掛けられた香坂隆史さんなのですが、ストーリー構成が上手な方で、『ハヤブサ消防団』には適任だと感じてお願いしました。ちょっとクールでシニカルな雰囲気の方で、ドラマの太郎のキャラクターには、若干、香坂さんご自身が入っているような気もします。第1話には、太郎たちが巻き込まれる最初の事件の見せ場をギュッと詰め込みました。
 
池井戸 僕の手元には現時点で、後半の山場に差し掛かった部分まで届いているんですが……。
 
飯田 (恐る恐る)どうでしょうか?
 
池井戸 いいんじゃないですか? でも、そのあとが肝心かな。
 
飯田 わー、今の言葉、夢に出てきそう……。でも、原作に埋まっているたくさんの面白さの“粒”を、移動させたり膨らませたりしながら、鋭意作っていますので! どこに転がっていくかわからない展開、そして、ハヤブサ消防“劇”団のチームワークにも、ぜひご期待ください。
 
池井戸 そうですね。放送を楽しみに待っています。
 

木曜ドラマ「ハヤブサ消防団」
【毎週木曜】よる9:00放送
出演 中村倫也 川口春奈
満島真之介 古川雄大 岡部たかし 麿赤兒
梶原善 橋本じゅん 山本耕史 生瀬勝久
脚本 香坂隆史  演出 常廣丈太/山本大輔  音楽 桶狭間ありさ
主題歌 ちゃんみな『命日』(NO LABEL MUSIC / WARNER MUSIC JAPAN)
制作協力 MMJ  制作 テレビ朝日

文芸ステーション
2023/07/13 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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