『「人気No.1」にダマされないための本』小林直樹著(日経BP)
[レビュアー] 尾崎世界観(ミュージシャン・作家)
ずさんデータ 見破る目
それにしても、「今もっともチケットが取れないアーティスト」が多過ぎる。メディアで紹介する際、そのアーティストがいかに人気か手早く伝えようと、こうした文言が当たり前に使われるせいだ。それとは別に、以前「今Z世代が聴いているバンドランキング」に自分のバンドがたまたま入り込んでしまい、恥ずかしい思いをしたことがある。たった十数人の学生を対象にしたアンケート結果がテレビに取り上げられ、ネットニュースになり、同じ局の他の番組でも使い回されるうち、「今Z世代に人気があるバンド」として広まった。当然ながら、その後、そうしたランキングに自分のバンドが入ることはない。本書はそんなずさんなデータに隠されたからくりを紐解(ひもと)いていく。
「No.1」と書かれた商品や広告の数は、「今もっともチケットが取れないアーティスト」を遥(はる)かに凌(しの)ぐ。さらには「No.1を取得させる」と謳(うた)い、メーカーから調査を請け負う調査会社まであるという。大事なのは良い状態を保つための持続力なのに、わかりやすさを優先して最大瞬間風速ばかりが求められる。
国際比較調査で、諸外国と比べて日本が標準を大きく下回るのは、日本人は自分だけが過大評価することを恐れ、まず様子見しようと「中間回答」「曖昧回答」を好むためだと示すデータも興味深い。
天気のように、自分がその時どこにいるかによって、情報はいくらでも形を変える。北海道は晴れていても、九州では大雨が降っているかもしれない。必要なのは、自分が今どこにいるのかを正確に把握し、ちゃんと疑いの目を向けること。そして、情報にもご自宅用とプレゼント用があり、何かを人に勧める時つい綺麗(きれい)に包装してしまいがちだ。こうして書評する際も、自分だけが過大評価することを恐れ、「中間書評」「曖昧回答」をしていないか、書きながら怖くなる。