『耳は悩んでいる』
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『耳は悩んでいる』小島博己編
[レビュアー] 尾崎世界観(ミュージシャン・作家)
子供の頃、耳鼻科に行くのが嫌で仕方なかった。耳の中はまるで宇宙で、そこに冷たい器具が入ってくるあの感覚が怖くてたまらなかったからだ。大人になった今、ミュージシャンとして耳を商売道具にしている。それでも相変わらず、まだ耳は宇宙のままだ。本書ではそんな耳のことが、耳のプロフェッショナルたちによってくり返し語られていく。同じテーマでもそれぞれ考えや切り口が微妙に違っていて、色んな角度から耳について知ることができる。耳にまつわる多種多様な病気や、難聴と認知症の関係など、それこそ耳が痛くなる話も少なくない。知れば知るほど複雑な仕組みをしている耳は、どこか神秘的でありながら、意外とアナログなパーツで構成されていたりもして、少し不安になる。
よくミュージシャンに対して、「天才的な耳を持っている」などというけれど、これを読めば、耳がいかに高度な働きをしてくれているかがわかる。耳がこれだけの働きをしながら「聴いてくれる」からこそ、自分はミュージシャンでいられるのだと、聴こえてくる音がより愛(いと)おしくなった。(岩波新書、1056円)