「てけてけ」とか定番の都市伝説にはハマらなかった 怪談研究家とミステリ作家が語った実話怪談にのめり込んだ意外なキッカケ
インタビュー
『怪談青柳屋敷』
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「てけてけ」とか定番の都市伝説にはハマらなかった 怪談研究家とミステリ作家が語った実話怪談にのめり込んだ意外なキッカケ
[文] 双葉社
■怪談業界はいまが“青春期”で昔の小説業界?
──いまや怪談業界のオーソリティーともいえる吉田さんが「なんとなく怪談を始めた」というのも意外ですね。
吉田:いまはどうかわからないですけど、ほかに何もできない人間の吹き溜まりが怪談だと思ってるし、むしろ、そうあるべきだと思っているんです。
青柳:え~、そうですか!? でも、誰にでもできるものではないじゃないですか、怪談って。
吉田:誰にでもできるもんですよ(笑)。いまいちばん誰にでもできるもの。だからいま人気なんじゃないですか。もちろん、その中で実力の差はありますけど。怪談自体は、好きだったら明日からでもできるし、私みたいに好きじゃなくてもできる(笑)。
青柳:確かに、僕もあんまり考えずに本出しちゃったしなぁ(苦笑)。
吉田:それが怪談業界のいいところだと思うんですよ。昔は小説だってそういうものだったはずですよね。田山花袋の『蒲団』とか読めばわかりますけど、あんな風に自意識過剰な若者がこぞって手を出すものだったはずですし。でも、そういう時がいちばんジャンルが活気があるというか、青春期のジャンルというか。で、結局そういうものがいちばん面白いし、やりがいもある。
■『怪談青柳屋敷』は“律儀な”怪談?
──今回の『怪談青柳屋敷』、吉田さんはどんな印象を抱かれました?
吉田:よかった、このまま本の話をしないで終わるのかなって心配してたので(笑)。やっぱり、読みやすいのはもちろんですが、新鮮でしたね。われわれとは書き方が違うんで。
青柳:新鮮? というと?
吉田:実話怪談はよくも悪くもいくつかの「定型」があります。また読者、実話怪談をよく読む人とのある種の共犯関係というか「ここは書かなくてもわかるよね」というところ、われわれ書き手が無意識にすっ飛ばすところもありますが、そこもきっちり書いていて。そういう意味でも定型から外れているというか。
青柳:いま言われてハッとしたんですが、たとえば、具体的にはどの辺ですかね?
吉田:たとえば、金縛りとか霊能者といった言葉をあまり使わないんですよね。たとえ体験者がそう語ったとしても、イメージが固定化されたり、書き手が意図しない方向に勘繰られたりするので。でも、青柳さんはその辺もきっちり書いている。そういう意味で、誠実だし、いい意味で理知的なというか……律儀ですよね。
青柳:律儀(笑)。その感想は予想してなかった。でも吉田さんが「定型」とおっしゃいましたが、実話怪談ってやっばり独特のリズムがあるな、というのは意識していました。ただ、そのスタイルが絶対ではないし、違うようにしようかなとも考えていましたね。
吉田:そういう律儀さは、わたしたち怪談作家が見失っている点というか(笑)。……やっぱり、青柳さんはミステリ作家というスタンスがあるし、ちょっと立ち位置が違うというか。ただ、その律儀なところは、たぶん読んでいる人も納得してくれると思いますよ。