当人公認の事実をベースに名曲の源泉=絶倫乱倫を語る
[レビュアー] 林操(コラムニスト)
セックス、ドラッグ、アルコールに塗れたロックスターのスキャンダル列伝―なんて誤解するともったいないのが、この『不道徳ロック講座』。確かに第1章のアタマから20人以上ならぶ人名は、ストーンズのミック・ジャガーが「関係」した相手の一覧で、そこにはキース・リチャーズやエリック・クラプトン、デヴィッド・ボウイといった同僚友人の女……のみならず、クラプトンやボウイ自身、つまりは男の名まであり。この艶福底なしのミックたちに続き、ジョン・レノン、スティーヴン・タイラー、キース・エマーソンといった性豪どもの下半身履歴が綴られていく。
が、著者の神舘和典は、自伝や評伝で当人たちの認めた事実をベースに話を進めるし、絶倫乱倫が数々の名曲の源泉であることをきちんと伝えてくれるゆえ、こちらが徐々に陥るのは「源氏物語」を読んでるような錯覚。別世界の普通じゃない皆様による組んずほぐれつの性愛と目くるめく歌詠みの無限ループが「源氏」なら、ミックの彼女カーラ・ブルーニがフランス大統領夫人に直るあたりもまた「源氏」なのよ。
そのうえで読後に痛感するのは、不倫破倫をことさらに騒ぎ立てる現在ただいまのニッポンの息苦しさの異常さ。振り返ってみれば、この新書がタイトルを本歌取りする三島由紀夫の『不道徳教育講座』も、嘘いじめ忘恩その他いろいろの不道徳を賞揚してこの国の偽善を告発する書でした。儒者多くして国滅ぶ。