『不道徳ロック講座』
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不倫もドラッグも初体験も赤裸々に
[レビュアー] 神舘和典(音楽ライター)
ミック・ジャガー、キース・リチャーズ、エリック・クラプトン、ジョン・レノン、ピート・タウンゼンド、マドンナなど、現在の日本人アーティストなら「一発退場」にされかねないエピソードがある。
仲間の妻や恋人に次々と関係を迫る、メンバー全員でファンをホテルに連れ込む、薬物に溺れて入院させられる、金に困って万引き……。
このデタラメで不道徳、でも才能あふれて憎めないロクデナシたちの伝説をまとめた一冊『不道徳ロック講座』を刊行した音楽ライターの神舘和典さんが、自著を紹介しながら、その一端を語った。
神舘和典・評「不倫もドラッグも初体験も赤裸々に」
少し前、俳優の広末涼子さんのW不倫が連日報道されていた。彼らを起用している企業には一大事だ。企業、商品、作品のイメージダウンにつながる。同時期に永山絢斗さんは大麻取締法違反容疑で逮捕されていた。こちらも活動が深刻なダメージを受けるのは間違いないだろう。直近の不謹慎な振る舞いだけではなく、何年も前の件も問題になるケースが珍しくなくなってきた。「時効」が無くなってきたようだ。
不倫やドラッグについて、海の向こうの“芸能界”は日本とは少し様子が違う。既婚であろうが、別の相手と抵抗なく関係を持つ。違法薬物を常用する。アルコールは、脳の機能がどうにかなるまで摂取する。それらが世間に知られても、職を失うケースはあまりない。それどころか当人が自伝やメディアのインタビューで堂々と語っている。
『不道徳ロック講座』を執筆するために、ジョン・レノン、ミック・ジャガー、キース・リチャーズ、エリック・クラプトン、ピート・タウンゼンド、マドンナ、シンディ・ローパーらロックスターのバイオグラフィや数多くの記事に目を通した。本書では彼らがおおらかに語る魅力的な逸話を本人コメント中心に紹介している。
本人は数えてはいないと思うが、ミックは4000人と関係したそうだ。そのなかには、ローリング・ストーンズの盟友、キースの内縁の妻、クラプトンの恋人、デヴィッド・ボウイ夫妻もいる。ミックは男女どちらともベッドに入る。トッド・ラングレンの恋人も奪ったが、彼女はスティーヴン・タイラーとも関係していたので、生まれた娘の父親が誰なのかわからなかった。やがて娘は女優となる。それがリヴ・タイラーだ。
多くのアーティストは自伝で初体験も告白している。クラプトンはパーティーの停電時に年上の女性に誘われ大人になった。ニューヨークで新聞少年だったキッスのジーン・シモンズは集金先の主婦に押し倒された。同じキッスのポール・スタンレーの相手も近所の奥さん。その家に通いすぎだと母親にとがめられたという。
ポールやキース・エマーソンは、日本の特殊な浴場での体験を振り返っている。手取り足取りのサービスにおおいに感銘を受けたという。
彼らは天才だ。庶民とは違う感覚で生き、ロックをやっているが、私生活での逸話も秀逸。別次元の感覚で生きているからこそ、彼らの歌も演奏もずば抜けていると再認識させられる。
そして今回、彼らの不道徳なエピソードを再構成していく過程で感じたのは、横のつながりが強いという点だ。濃く交流している。チャートを争い、女性を奪い合い、それでいてリスペクトし合い、けんかと仲直りをくりかえす。結婚式にも葬式にも参列する。そのため思いがけず、ロックシーンの大河ドラマのような本になった。