大波がどぶどぶと押し寄せるシンプルでワイルドな探訪記!
[レビュアー] 篠原知存(ライター)
海なし県で育ったせいか、うかつにも「海のプール」なんてものがあることをまったく知らずにいた。海でありながらプールでもあるとか。面白そうじゃないですか。
海辺の岩場を掘ったり囲ったりして作られた海水プールのことで、多くは干満差を利用して自然に水が循環するようになっている。国内でも1970年代から80年代によく作られたけれど、廃止されるなどして現存するのは約20ヶ所という。
海や島を巡る旅を重ねてきた著者が、稀少になりつつある海のプールで泳ぎ倒す探訪記が本書。どこもシンプルかつワイルド。まとめて掲載されているカラー写真を見るだけでも巡りたくなってくる。
学校にプールが無かったから、観光振興のため……各プールの来歴や現況について関係者から話を聞く。誰もいなければ一人で海を楽しむ。魚と一緒に泳いだり、ただプカプカと浮かんだり。プールといってもほぼ天然なので、季節や天候によって表情が大きく変わる。荒天で泳げなかったりしても、一期一会を堪能している。
自然との向き合い方が楽しげなのがいい感じ。〈海に浸かる愉悦に勝るものは何もない〉と言い切る著者は、仕事や人間関係に疲れるたび、海に癒してもらいに行く。飛行機を使って日帰りで離島へ泳ぎに行くとか、真冬でも震えながら海に入るとか、かなりの愛好家ぶり。
大波がどぶどぶと押し寄せる荒天のなか、もみくちゃにされながら、〈自然の力に多少翻弄されるほうが、今この瞬間を生きているという実感もわいてくる〉なんて書いたりもする。確かにそこらの造波プールではできない経験かも。
各地の海のプールで無邪気に遊ぶ子供たちの姿も描かれている。近所にこういう場所があるのは、素直にうらやましい。まだ暑さが残っているうちに、子供を連れてどこか訪ねてみようかな。