【児童書】『世界一長い鉄道トンネル』笹沢教一著
[レビュアー] 産経新聞社
■持続可能な輸送とは
スイス・アルプス山脈を南北に貫く「ゴッタルド・ベース・トンネル」は、2016年に開通した世界最長の鉄道トンネルだ。長さは57・1キロ。日本の青函トンネルの53・9キロを抜きトップに立った。長いトンネルを掘ったのにはわけがある。
険しい山脈の南側には地中海の海産物があり、北側は穀物や畜産物が豊富だ。スイスや周辺国の間では交易が盛んだが、アルプスを避けると遠回り。19世紀から鉄道トンネルが掘られたが、標高の高いところにあり列車が登るのに時間を要する。20世紀に道路トンネルが開通し所要時間が短くなったものの、排ガスで山の生態系に異変が起きた。
スイスの鉄道はほぼ電化され、車より環境への負荷が小さい。そこで鉄道輸送の利用を促すため、標高の低いところを一気に走り抜けるトンネルが計画された。ただ、工事は危険で莫大(ばくだい)な費用がかかる。それでも自然と共存する「持続可能な輸送」を目指すのか。国民参加で意思決定するプロセスが丁寧に解説され興味深い。対象は小学校中学年から。(Gakken・1650円)
黒沢綾子