緊迫の奪還劇、監禁からの脱出劇 19年ぶりのシミタツ節炸裂!!

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負けくらべ

『負けくらべ』

著者
志水 辰夫 [著]
出版社
小学館
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784093866958
発売日
2023/10/03
価格
2,200円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

緊迫の奪還劇、監禁からの脱出劇 19年ぶりのシミタツ節炸裂!!

[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)

 著者八六歳にして一九年ぶりの現代長篇というと、世のシミタツファンもさすがに一抹の不安を覚えるのではなかろうか。しかし心配はご無用。出だしから年寄り臭さも長年のブランクも感じさせない、往年の語りが堪能できること請け合いだ。

 主人公の三谷孝は六六歳の介護士だが、その傍ら内閣情報調査室関係の仕事に協力している。五月のある日、介護施設に入居中の知人を訪ねた際、ひょんなことからIT起業家の大河内牟禮と知り合い、彼の手伝いをすることになる。手伝いといっても話し相手になることだったが、実は三谷は人並外れた対人関係能力や空間認識力、記憶力などを持つギフテッドであり、彼と同様有能で、かつ一族の間で浮いた存在である大河内にそれを一目で見抜かれていた。

 二人は山梨の大河内の山荘で親交を深めていくが、一方、大河内の母・尾上鈴子がオーナーを務める東輝グループは内調に目を付けられていた。鈴子の叔父・泰河は伝説の右翼で、その活動は息子の深浦希海が引き継いでいると見られていた……。

 ギフテッド、特異能力者を主人公にしながら決してそれをひけらかすような派手な演出を取らないのは、この著者ならでは。むしろ三谷は一貫して抑制的であり、実際ストイックな生き方を通してきた。三谷のキャラクターを補強するものとして物語に随時挿入される彼の介護エピソードにもそれは立ち現れているが、大河内との付き合いをきっかけに変化が生じるのである。

 物語前半は三谷と大河内の間にどのような絆が育まれていくのか、独自のバディものとして読みごたえあり。後半は大河内の、というか尾上一族の御家騒動が本格化し、命がけの抗争へと発展。ミステリーとしてのサスペンス度も高まっていく。緊迫した奪還劇あれば監禁からの脱出劇もあり、終盤のそのサバイバル演出ではシミタツ節も炸裂するので、乞うご期待!

新潮社 週刊新潮
2023年10月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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