『教室のゴルディロックスゾーン』
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『教室のゴルディロックスゾーン』こざわたまこ著
[レビュアー] 宮部みゆき(作家)
今、青春小説は文芸出版界のもっとも隆盛なジャンルだ。現実の青春時代にいる読者層だけでなく、とうに青春を卒業した大人たちまでが、現代の青春小説に魅了されている。「社会で起こることは全て学校でも起こる」というシンプルで厳しい事実が広く認識されたとき、青春小説は世代を超えた普遍的な人間ドラマを描き得る文芸プラットフォームになったのだ。
本書は連作短編集。登場する女子中学生たちは、それぞれに強くて賢くて、寂しい。タイトルの「ゴルディロックス」はイギリスの有名な童話に由来する言葉で、「ちょうどよい程度」という概念を表している。
冒頭、これ学校ものだよね? と面食らう描写から始まるが、それもきちんとストーリーに織り込まれる。読者によっては、少女たちに感情移入する以上に、彼女たちの取り扱いづらい青春に寄り添うペットの犬たちに心を盗まれてしまう場合もありそうだ。
ジャンルが活況だと、内部の競争は熾烈(しれつ)になる。そのなかでも本書を際立たせているのは、清楚(せいそ)で美しい造本だ。ぜひ手にとって確かめてみてください。(小学館、1870円)