『偽りなきコントの世界』
- 著者
- 岩崎 う大 [著]/中村 計 [著]
- 出版社
- KADOKAWA
- ジャンル
- 文学/日本文学、評論、随筆、その他
- ISBN
- 9784041132005
- 発売日
- 2023/08/09
- 価格
- 1,650円(税込)
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『偽りなきコントの世界』岩崎う大著/中村計執筆
[レビュアー] 川添愛(言語学者・作家)
笑い 緻密な計算と技量
人を笑わせることは怒らせたり泣かせたりするより何倍も難しいというが、なぜ私たちはコントや漫才を見て笑ってしまうのだろうか。本書では、キングオブコントの覇者であり、脚本家や漫画家としても活躍する著者が、笑いを引き起こすプロの技術を解説してくれる。
本書を読むと、私たちがふだん見ているコントが緻密(ちみつ)な計算と高度な技量の上に成り立っていることが分かる。たとえば、東京03の名作コント『旅行』では、男性が好きな女性の前でハーモニカを取り出して吹き、「愛が騒いで、夜も眠れねえよ」と愛を告白する場面がある。私などはつい台詞(せりふ)のクサさの方に注目してしまうが、著者によれば「ハーモニカを吹く」という前段が重要で、これがなければボケとしての役割が弱まるという。逆にボケ感が出過ぎる危険性もあるが、そこは角田晃広さんが演じることでバランスが取れているそうだ。シナリオと演出と演者の絶妙な三位一体によって笑いが生まれていることに驚く。
漫才とコントの違いについての著者の考えも面白い。漫才が「その人自身を丸ごとさらけ出して笑わせる芸」なのに対し、コントは「こういう人が、こういうシチュエーションに陥って、こういう言動に走りました」という現象を紹介するもの。これはエッセイと小説の違いにも通じるような気がする。近年では漫才の中でコントが演じられることもあるが、これは通常のコントとはまた異なる技術を要するという。
本書を読んでいると、絵画や彫刻などを専門家の解説とともに鑑賞するのと同じような楽しさが、お笑いにもあることを実感する。「人物を造形するとき、いちばん大事なのは、その人が何に快感を覚えるかということ」「リアリティーを追求するためには登場人物は常に自分のメリットのために行動しなければなりません」など、作劇のノウハウも豊富だ。お笑い好きの人だけでなく、創作をする人にもおすすめしたい。(KADOKAWA、1650円)