『プロダイバーのウニ駆除クエスト 環境保全に取り組んでわかった海の面白い話』中村拓朗著

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プロダイバーのウニ駆除クエスト 環境保全に取り組んでわかった海の面白い話

『プロダイバーのウニ駆除クエスト 環境保全に取り組んでわかった海の面白い話』

著者
中村 拓朗(スイチャンネル) [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784046064202
発売日
2023/09/20
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『プロダイバーのウニ駆除クエスト 環境保全に取り組んでわかった海の面白い話』中村拓朗著

[レビュアー] 川添愛(言語学者・作家)

磯焼けの敵に日々実験

 著者は長崎の海で活動するプロダイバー。幼い頃から海に親しみ、「密漁者かと怪しまれることなくダイビングができる」という理由から水族館員になった経歴を持つ。本書は著者が携わる、文字通り「水面下」での環境保全活動を楽しく紹介するものだ。

 タイトルを見て「なぜウニ? なぜ駆除?」と思ったが、現在、各地の海で海底が砂漠化する「磯焼け」が問題になっており、海藻を岩肌ごと食べ尽くすウニの増加はその一因になっているらしい。漁協の組合長から与えられしウニ駆除用ハンマー「マスターソード」を手に、たった一人(かつ自腹)で活動を始めた著者だが、その様子をYouTubeで発信したところ「ウニを割る音が心地よい」と大きな反響を得たという。

 「なぜウニ? なぜ駆除?」という疑問は、本書を通じて著者自身が問い続けるテーマでもある。磯焼けした海で増えるウニは実入りが良くないため駆除するしかないが、人工的に餌を与えて実入りが良くなれば駆除しなくてよくなるのでは?との疑問から、著者はウニの畜養(=養殖)に乗り出す(しかも餌はキャベツ!)。また、ウニ漁が磯焼けの解消にどれほど貢献するのか調べるため、自らウニ漁を開始する。午前11時から始めたウニ剥(む)きとパック詰めが終わったのが深夜2時で、しかもその日の売り上げ総額が5000円だったという話を読むと、水産物を扱う仕事の大変さが心に沁(し)みる。

 著者は実践と実験を通じて、海に豊かな海藻の森を再生するための知見を次々と蓄えていく。レジェンド漁師や大学の先生に助言をもらったり、ウニ漁の許可を得るためギルド(漁協)に入ったり、ウニ駆除を助けてくれる魚たちとパーティを組んだりしてレベルアップしていく著者を見ていると、自然と応援したくなるし、何より、見えないところで海の環境を守ってくれる人たちがいることに感謝の気持ちでいっぱいになる。ぜひとも全人類に読んでほしい。(KADOKAWA、1760円)

読売新聞
2023年10月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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