『続 窓ぎわのトットちゃん』
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『続 窓ぎわのトットちゃん』黒柳徹子著
[レビュアー] 川添愛(言語学者・作家)
戦下を明るく生き抜く
小学校を1年生で退学になったトットちゃんが、トモエ学園でのびのび育つ姿が描かれた前作から42年。長い年月を経て著者が続編を書こうと思ったきっかけの一つは、戦争のことを書き残しておきたいと考えたことだという。
本書の前半部分は、戦争が暗い影を落としている。食料が足りなくなり、1日に大豆15粒しか食べられない日も。トットが「寒いし、眠いし、おなかがすいた」と泣いていると、おまわりさんから「戦地の兵隊さんのことを考えてみろ!」と叱られる。描写は淡々としているが、戦争の苛酷(かこく)さがひしひしと伝わってくる。
しかしトットは、不思議な巡り合わせによって幾度となく危機を乗り越える。疎開のときに上野駅で家族とはぐれてしまい、たった一人で青森へ向かうときも、偶然乗り合わせた親切なおばさんに助けられる。ママやトットの「野性の勘」で空襲を回避したこともある。
読んでいてなんとなく、こういったことを単なる「運の良さ」で片付けてはいけないような気がした。当時の人々の助け合いの精神もさることながら、邪(よこしま)なところがまったくないトットや家族の性格が、さまざまな「助け」を引き寄せているのではないだろうか。とくに、疎開先の人々と信頼関係を築き、商売まで始めてしまうママの逞(たくま)しさには感銘を受けた。苦難の時にこそ、明るさや遊び心が必要なのかもしれない。
戦争が終わってからは、トットが「わが身を咲かせる」ための日々が始まる。こちらの“個人の闘い”も壮絶だ。他人にひどい言葉を浴びせられ、涙を流したこともある。しかしトットは、言葉そのものに傷つきはしても、相手を恨んだりはしない。
読んでいると、トットの天真爛漫(らんまん)さが自分の中にも流れ込んでくるような、爽やかな気持ちになる。前作を読んでいない人もぜひ読んでほしい。そして、子どもが泣くことすら許されない時代が、もう二度と来ないことを願う。(講談社、1650円)