『めざせ!ムショラン三ツ星』
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「コロッケが爆発しました」。実録! 刑務作業としてのムショメシ
[レビュアー] 篠原知存(ライター)
クサいメシ、と呼び習わされる刑務所の給食。本書を読むまで知らなかったけど、調理員はいないのだとか。朝昼晩と料理するのは受刑者。ほとんど経験のない人たちが刑務作業として担当する。しかも食べるのはすっかり冷めてしまってから。そりゃ味は期待できないか。
だけどそんな現場で奮闘している人はいる。著者もその一人だ。法務技官(国家公務員)の管理栄養士として、男ばかりの刑務所で10年余り、受刑者を指導しながら給食づくりに励んできた。その間の出来事を等身大の軽やかな文章で綴る。
「みょうがはどこまでむくんですか?」「コロッケが爆発しました」「煮魚が大変なことに……」。料理初心者のあるある失敗談は塀の内外を問わず笑えるし、刑務所ならではの特殊事情も興味深い。たとえばアルコールを含む「みりん」は使用不可。こっそり飲む人がいるから。ほかにもいろいろNGだらけ。
なにより避けたいのが不公平感。麦飯など主食の分量は刑務作業の内容や身長によって決まっていて、おかずも多寡があってはならない。
「数物認定」という言葉を初めて聞いた。数が認識できる献立かどうか、という意味。揚げ物などは個数や大きさを合わせる必要がある。具材が揃わない時は、数えられないようにぐちゃぐちゃにしてしまうのだとか。見栄えより平等が大事なのだ。
限られた予算、過酷な労働環境、独特のルール、素人による調理……不自由だらけの中で著者はレシピや調理法に工夫を凝らす。受刑者からの「ウマかったっス」を励みに。
クサくないムショメシづくりは、受刑者の健康維持に役立つし、更生にもつながる、というのが本書の主題。炊場での作業を通じて料理に興味を持つようになり、調理師試験に合格した受刑者もいるそうだ。
そんなムショランの味を体験できるレシピも付く。冷めてもおいしいはずなので、お弁当にいいかも。