『天守のない城をゆく』
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<書評>『天守のない城をゆく 城の楽しみ方、活(い)かし方』澤宮優 著
[レビュアー] 加藤理文(城郭研究家)
◆文化財への愛情と信念
「城」イコール「天守」になったのはいつからだろうか。おそらく、戦後の鉄筋コンクリートによる天守復興ブームからだろう。本書のタイトルを初めて見たとき、天守のない城を紹介する本だろうと思った。ところがページをめくると、そこにはまったく別の世界があった。
敗者・石田三成の城から大河ドラマ「真田丸」、そして鳥取神社や荻原一青、この城好きが欣喜雀躍(きんきじゃくやく)する選択は何だと思っているうちに、「城の保存」へと話が急展開する。今、城に限らず我が国の文化財が直面する法改正が生んだ「保存と活用」、文化財を街づくりや観光の起爆剤にしようという問題に切り込んでゆく。
文化財としての城を守り、歴史遺産として後世へと引き継ぐ、各地の事例が続く。そして、天守のない城を生かした魅力的な取り組みが紹介されている。そういうことかとはたと気付く。
城というより文化財全般への強い愛情と守ろうという信念がつづられていた。城の保護活用、そして望ましい城の在り方を考える一助としたい本だ。
(青土社・2420円)
1964年生まれ。ノンフィクション作家。『戦国廃城紀行』など。
◆もう1冊
『家康と家臣団の城』加藤理文著(角川選書)。全国各地の城が補い合う独自の城造りを解明。