『ロシア地政学地図』デルフィヌ・パパン著

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『ロシア地政学地図』デルフィヌ・パパン著

[レビュアー] 遠藤乾(国際政治学者・東京大教授)

 不幸にして、ウクライナ戦争は3年目に突入しそうだ。パレスチナでの惨劇で多少かすんで見えるが、苛烈な戦いがつづく。

 この本は、戦争の実相と背景を100葉余りの地図と画像で見える化する。その時空間的な拡(ひろ)がりが次々に精密な画像に落とされていくさまは圧巻である。

 資源・生産・物流から、国の成立、領土変更史、基地配置や軍備展開、そして数々の戦争を指導したプーチン氏の言動に至るまで、二次元で表現される対象は包括的で、正確だ。それを可能にしたのは、フランスの強みでもある地理学の伝統と、ル・モンド紙の取材データ、画像処理のチームである。

 見開きの一枚一枚を見ていると、既知と思う事柄でも、時にハッとした気づきがある。シリアのどこがどれだけロシアに爆撃され、何人が亡くなったのか。沿ドニエストル・モルドヴァ共和国と周辺の民族がどう構成されているか、アゾフ海やバルト海の海峡がどのような意味を持つか……。

 解説も的確で、地図が深く読み解ける。そばに置き、眺めていたい作品だ。蔵持不三也訳。(柊風舎、9350円)

読売新聞
2023年12月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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