『とある家族の物語』田中耕三郎・写真と日記／田中成人・編著

　赤ん坊を着替えさせる母親、校庭で遊ぶ兄弟、こたつを囲んでクリスマスを祝う一家――。昭和３９年（１９６４年）から４２年（６７年）にかけての、ごくありふれた家族写真。「家（うち）のアルバムにも似たような写真があった」と、既視感を覚える人も多いのではないかと思うほど、特別感はない。

　それもそのはず。これらの写真はその時代に近畿地方にいた、プロのカメラマンでも何でもない、普通の工場会社員の男性が、家族を撮ったものだからだ。男性が亡くなった後、遺品整理をしていた息子が白黒写真を見つけ、アプリでカラー化してインスタグラムで公開。話題となり、写真集の刊行に至ったという。

　眺めていると、写っている母親や父親が、在りし日の自分の両親に、子どもが、かつての自分の姿に見えてくる。書名にある通り、「とある家族」の写真のはずが、そこからは「自分の家族」の息づかいが聞こえてきそうだ。

　あの時代に生きていた人は涙腺が緩み、若い人の目には新鮮に映ること必至な、不思議な魅力に満ちた一冊。（トゥーヴァージンズ、２４２０円）（十）

• 読売新聞
• トゥーヴァージンズ
• とある家族の物語
• 田中耕三郎
• 田中成人

• 
• 
•