『破れ星、燃えた』倉本聰著

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破れ星、燃えた

『破れ星、燃えた』

著者
倉本 聰 [著]
出版社
幻冬舎
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784344041516
発売日
2023/08/23
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『破れ星、燃えた』倉本聰著

[レビュアー] 堀川惠子(ノンフィクション作家)

反骨の脚本家 盟友回想

 テレビドラマ界の黄金期を築いた山田太一さんが逝った。山田さんを「戦友」と悼む脚本家倉本聰88歳。NHK大河ドラマ降板事件はもはや伝説で、反骨精神の塊。創作の源にあるのは「怒り」という。今作は脚本家の肩書に「おくりびと」と付け加えたいような鎮魂に満ちた一冊。

 田中絹代。倉本ドラマ「前略おふくろ様」(1975~77年)のおふくろ役。ドラマの中で、その訃報(ふほう)が息子に届く放送回の3日後に逝去した。裸電球の下、倉本ら3人だけの寒々とした通夜。昭和の大女優は晩年、孤独と貧困に生きた。葬儀では一転、焼香台の上にファンからの「賽銭(さいせん)」が積みあがった。その光景は、脚本家の文章だからと八掛けで読んでも落涙を禁じ得ない。

 緒形拳。末期がんを抱えて臨んだ「風のガーデン」(2008年)。早逝する息子役の中井貴一とのラストシーンは「あれ程役者が真剣に渡り合い、全神経とエネルギーを使い果たした撮影現場を見たことがない」ほどの「神域」に。

 八千草薫に梅宮辰夫。引退した芸能人専用の架空の老人ホームに、草創期からテレビを支えてきた俳優を勢ぞろいさせた「やすらぎの郷(さと)(刻(とき))」(17~20年)。放送中から出演者が次々と亡くなり、「戦没者名簿」が出来た。倉本はテレビドラマという戦場に名優たちの墓標を立ててきた。そして今、「死が至近弾としてすぐそばに落ち」る。

 皮肉なことにノンフィクションは事実を重ねても真実に近づけない時がある。倉本作品は登場人物をCTスキャンするような緻密(ちみつ)なドラマツルギーで真実に肉薄する。

 硬も軟も、正義も不正義も、世相を貪欲に映し出すテレビ。可能性に満ちた大衆の娯楽は今や若者に媚(こ)び、軽薄な商業主義に侵されて久しいと倉本の怒りは収まらない。

 「いいか! ジジイをなめるなよ!!」

 巨匠の雄叫(おたけ)びを浴びながら、残りの人生どう成し遂げるか思い巡らす年の暮れ。(幻冬舎、1980円)

読売新聞
2023年12月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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