『赫き女王』
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美しくも残酷な赫き女王の降臨
[レビュアー] 北里紗月(作家)
私は幼少期から生きて動いている生物の全てが好きでした。大きな石の裏側、湿った土の中、深い森の中、そして美しき海の底。この地球は大小さまざまな生物たちで溢れています。彼らの行動原理はただ一つ、生き残りと同種の繁栄。厳しい自然環境の中で、他者を欺き、時に利用し、その命を奪い、己の糧とします。
35億年前、太古の海の中で生まれた生命はこの熾烈(しれつ)な戦いに放り込まれ、勝者のみがその存在を許されてきました。例えば、他人の巣に卵を産み付けるカッコウの托卵(たくらん)は有名ですが、そのヒナは殻を破って生まれた後、真っ先に巣に残る本来の卵を地面に叩き落とします。なぜ生まれたばかりのヒナに、このような妙技が可能なのか詳しい答えは分かっていません。
私は生命が持つ圧倒的な美しさと残酷さ、そして解き明かされない数多の謎に魅了されているようです。
今回の作品には、私が幼少期より夢中になっている生物の進化に関する様々な現象を取り入れてみました。全ての現象は決して絵空事ではなく、悪夢のような現実がどこかで始まるかもしれない……そんな物語に仕上げてあります。読者の皆様には、知的好奇心をくすぐられながら、大自然に叩きのめされる恐怖を堪能していただきたいです。
物語の舞台は東京から南に1700キロ。楽園のように美しい無人島に作られた海洋生物総合研究所。最先端の研究機器と日本屈指の頭脳を集めた研究施設で新薬の研究を行う高井七海(たかいななみ)。昨日までと何も変わらないある朝、七海の目の前で研究員の集団怪死事件が発生。生き残った職員の命を守るため、七海は島の中心にある深い熱帯の森に向かう。人間の侵入を拒絶する森の奥深く、七海が目にするのは一筋の希望か、圧倒的な絶望か。
長い戦いの果て、島の最深部にたどり着いた読者は、隠された全ての秘密を解き明かします。集団怪死の真の意味とは、赫き女王とは、そして生命進化の向かう先は? 私の用意したバイオホラーの密林を心行くまで散策し、その全てを見届けて下さい。