ヒグマなど害獣駆除の賛否と価値観の線引を考える “動物と人間の関係”を河﨑秋子と安島薮太が語る

対談・鼎談

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ともぐい

『ともぐい』

著者
河﨑 秋子 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103553410
発売日
2023/11/20
価格
1,925円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

クマ撃ちの女 12

『クマ撃ちの女 12』

著者
安島 薮太 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
芸術・生活/コミックス・劇画
ISBN
9784107726643
発売日
2023/11/09
価格
726円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

安島薮太×河﨑秋子・対談「動物、狩猟、そして炙り出される人間性」

[文] 新潮社


河﨑秋子さん(左)と安島薮太さん(右)

河﨑秋子×安島薮太・対談「動物、狩猟、そして炙り出される人間性」

 北海道で乳牛66頭を襲い、世間を騒がせた「OSO18」のほか、日本全国各地で熊による人身被害が発生した2023年――。害獣駆除に賛否の声が上がり、動物と人間の共生が注目された。

 そうした背景を踏まえ、猟師を題材にした小説『ともぐい』で第170回直木賞を受賞した河﨑秋子さんと、漫画『クマ撃ちの女』の作者・安島薮太さんが、命に対する様々な価値観を語り合った。

 熊や鹿などによる被害や猟師の存在、そして動物への愛着などが交錯する二人の想いとは?

相次ぐ熊害(ゆうがい)と過熱する熊報道

河﨑 私の実家は北海道の別海町で酪農をやっているのですが、OSO(オソ)18が出没した標茶町の隣町なんです。車で1時間ほどかかるので、離れてはいるのですが、こちらに来たとしてもおかしくはない位置関係でした。ただ、放牧中の牛や馬がヒグマに襲われ、尻を噛まれたり引っ掻かれたりすること自体は、さほど珍しいことではないんですよね。

安島 僕が取材でお世話になっている猟師の方も、OSO18は特別ではなく“通常運転の熊”という言い方をしていました。たまたま被害が大きくなってしまったんだろう、と。OSO18に関しては、メディアが「怪物」を求めたような印象も受けました。熊の目撃例が全国的に増えていますけど、それは実感します?

河﨑 私が子どもの頃よりは確実に増えています。ただ、うちの地域では、お互いに干渉しない関係は維持できているんですよ。それだけに、2021年に札幌市の東区でゴミを出している最中に人が襲われたというニュースを見たときは、すごくショックを受けました(注:東区で人が熊に襲われたのは1878年以来143年ぶり)。集落のなかで暮らしている人間が安心できなくなるというのは、ものすごく印象的な出来事でしたね。

安島 実際に熊を目撃されたことはありますか? 僕は動物園でしか見たことがないんです。

河﨑 大体200メートルほどの距離で目撃したことがあります。大きな川沿いの、橋を渡ったあたりで、道路を横断していました。夏前でやせ細っていたし遠目だったので、最初は犬かと思ったんですが、どうもサイズが違う。さすがに「やばいな」と思いました。

安島 200メートルは怖い。僕は取材中にデントコーン畑(とうもろこしの一種)で熊の糞を見つけただけで、もう怖くて仕方がなかった。害獣の駆除が報道されると「可哀想だ」とか「ほかにやり方はなかったのか」と言われますけど、それは安全圏で見ている人の意見じゃないかな、と思います。

河﨑 その感情は人間特有の優しさだと思うので、なきゃいけないことなんですけれども、それを現場で苦労している人にぶつけるのは違いますよね。ただ、私は『ともぐい』を物語として書いたのであって、熊への注意喚起のために書いたわけではないんですよ。

安島 僕の場合はちょっと違っていて、というのも長期連載のマンガの場合、連載中に何か事件や出来事があれば、その時々で自分の考えを作品に込められるんですよね。だから「熊を舐めている奴を怖がらせたい」という意図も、じつは少しだけありました(笑)。とはいえ、熊は怖いだけじゃないとも言いたいので、それはこれから描いていくところですね。注意喚起という点では、11巻の巻末のおまけマンガは、まさにそのためだけに描いたんです。

河﨑 あれは本当に実用的で、興味深く拝読しました。

安島薮太(漫画家)/河﨑秋子(作家)/構成・加山竜司/撮影・曽根香住

新潮社 波
2024年1月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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