『ひとりの宇宙』
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カミングアウトした元モデルが新宿二丁目でバーをオープンするまで
[レビュアー] 吉田豪(プロ書評家、プロインタビュアー、ライター)
芸能活動をしていた期間は短かったけど、初期の郷ひろみにも通じる中性的なキャラで1998年には全曲筒美京平作の名盤『ムネトピア』をリリースした、モデルの櫻田宗久。そして、それは別にキャラだったわけでもなく、カミングアウトを経た2001年には吉川ひなのと☆Spica☆というユニットを結成。「決まり事やルールを吹き込まないで」「男の子らしくなんて誰が決めたのそれはボクとは違う」「女の子に憧れる君を誰も責めたりはできないよ」と2人で歌う箇所で、ノンケというか、今で言うところのシスジェンダーなボクもなぜか毎回聴いてて泣きそうになったりしてたんだが、そんな彼が新宿二丁目に「星男」というバーをオープン。これまでの諸々と、新宿二丁目について掘り下げたのが本書だ。独立トラブル時に吉川ひなのが手を差し伸べてくれたのが☆Spica☆結成の経緯だったこととかもわかるが、メインとなるのはセクシャリティのことである。
自分はゲイなのかもと思い始めた高校時代に「アナルセックスを求められた私は、興味本位で受け入れた。だが、その行為の前にお尻を念入りに洗うという前提を私は知らなかった。すると相手が私のお尻を舐めた途端に吐いてしまい、それで終わりとなったこともあった」という、有名人の本としてはかなり踏み込んだ、あまり聞けないエピソードに始まり、「デビュー曲を作ってくれた筒美京平さんが、私に話してくれた言葉で一番印象に残っているものがある。『まな板のうえの鯉になりなさい』」とのエピソードも印象的。
要は、クリエイター的にいろいろ口出しするよりも、「堂々とまな板にのり、まわりに『いさぎよく斬られよ』」という意味らしいんだが、それにどうしても不向きで悩んだ彼は、自分らしく生きる道を探すうちに新宿二丁目でバーをやることとなる。それは☆Spica☆の歌詞のままだなとも正直思うのであった。