『かすり傷も痛かった』
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「トラブルはすべて身から出た錆」って、本当か?!
[レビュアー] 吉田豪(プロ書評家、プロインタビュアー、ライター)
幻冬舎の編集者・箕輪厚介が調子に乗りまくった時期に出版した『死ぬこと以外かすり傷』(マガジンハウス)。他社から出たその本を全文再録した上で、「それに対する反省と振り返りを書き下ろした」出版常識無視のセルフ突っ込み本が本書である。
自虐的なタイトルも含めて、当時は「基本的に恥ずかしい生き方をしているのに、強くキャッチーな言葉で時代の寵児みたいなお化粧をしていただけ」だったという自覚が芽生えた彼の発言には、不思議と説得力がある。つまり、以前は「トラブルに身を投げろ!」とか煽りまくっていたのに、女性トラブルを週刊誌で報道されて仕事を失ったりした経験を経て「トラブルはすべて身から出た錆」に訂正してみたりと、いい感じで化粧を落としているわけなのだ。
「LINEのスクショを週刊誌に公開されたことがある人はこの本の読者の中にいるだろうか?(略)絶対に他人に見られることはないと信じていた文面。そのスクショを全世界に公開され、さらに数週間にわたって、さまざまなコラムニストが僕のLINEの文章について検証し始めた。『キモい』『ダサい』『イタい』『典型的なおじさんLINE』あらゆることを言われた。街で笑い声が聞こえると自分のことを笑っているんじゃないかとビクッとした」
ここまで追い込まれながらもオンラインサロンの会員相手に強がりを言ったら、その失礼な発言もそのまま報道されたりしてピリピリしていた彼は、秋元康との食事会で「今度、『歪のまま生きる』って本を書こうと思うんです」と伝えると、秋元は「そんな世間に中指立てるみたいなことしたって、どんどん世界が狭くなっちゃうだけだよ。『かすり傷も痛かった』というエッセイを書けば、箕輪もかわいいところあるじゃんってなるんだよ」と言った模様。
この本、タイトルも含めていちいち上手いと思ったら、それは秋元の企画力だっただけなのであった。