『時評書評 忖度なしのブックガイド』豊崎由美著

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時評書評

『時評書評』

著者
豊崎由美 [著]
出版社
教育評論社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784866240886
発売日
2023/11/20
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『時評書評 忖度なしのブックガイド』豊崎由美著

[レビュアー] 池澤春菜(声優・作家・書評家)

本への愛・憤り 3年総括

 書評界切っての暴れん坊による、忖度(そんたく)なし、歯に衣(きぬ)着せぬ、メッタ斬り、場外乱闘上等、でも誠実で何よりも文学とこの世界への愛と希望に溢(あふ)れた書評集。

 読んでいて切実に「あぁ、本は世界と繋(つな)がっているんだなぁ」と思った。当たり前のようで、つい忘れてしまう感覚を、時評と書評という形で問い直してみせる。

 ここ最近騒がれている問題はけして昨日今日出てきたわけではない、その根っこはもうずっとずっと前から醸成されていたのだ。世界は黄昏(たそがれ)に向かい、弱いものが弱いものを叩(たた)き、人の心は貧しくなっていく。だけど本がある、言葉がある。人は自分以外の人のことを知ること、学ぶことはできるのだ。

 時に軽妙で、時に憤りに満ちた三年分、三六本の書評は、例えば芸能人や政治家の炎上発言とモーパッサンの『脂肪の塊』、セクハラパワハラ問題とオウィディウスの『恋の技法』を並べて論じ、太田光とマリオ・ヂ・アンドラーヂ『マクナイーマ』を重ね、糸井重里にチョ・セヒ『こびとが打ち上げた小さなボール』を薦め、正しさに疲れた人にジョン・ケネディ・トゥール『愚か者同盟』を紹介する。野球や駅伝、ワールドカップの選手陣に見立てた怒濤(どとう)の連続書評もあり、実に、濃い。時評と、丁寧に愛を持って読み込まれた書評が一つになっている。

 笑って笑って、時にひやりと自分を省みて、読みたい本に付箋をつけ、いなくなった人を思ってしんみりし、溜飲(りゅういん)を下げ、怒りをかき立てられ、励まされ、お尻を叩かれ、横っ面を張られ、自分自身の本と世界に対する向き合い方を考えさせられる。

 あとがきで著者は「書評家の役目」は「強靱(きょうじん)な言葉を持った小説たちを未来に手渡すための大八車を、後ろから力一杯押す仕事」と自負を持って述べる。書評の形も書評家もさまざま。わたしもいっそう襟を正して臨みたいと思う。(教育評論社、1980円)

読売新聞
2024年3月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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