「圧倒的な世界観」「美麗」と話題 『ELDEN RING』『Bloodborne』のコンセプトデザイナーgehnが語る 画集『ORACLE』の制作秘話
インタビュー
『ORACLE gehn/ハイファンタジー物語画集』
- 著者
- gehn / ゲーン:TSUTOMU KITAZAWA [著]
- 出版社
- 小学館集英社プロダクション
- ジャンル
- 芸術・生活/絵画・彫刻
- ISBN
- 9784796873727
- 発売日
- 2023/12/21
- 価格
- 3,300円(税込)
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「圧倒的な世界観」「美麗」と話題 『ELDEN RING』『Bloodborne』のコンセプトデザイナーgehnが語る 画集『ORACLE』の制作秘話
[文] 小学館集英社プロダクション
カードゲーム『レジェンドオブモンスターズ』、小説『混沌の惑星』シリーズ、『ELDEN RING』『Bloodborne』など多くの作品制作に関わるコンセプトデザイナーのgehn(ゲーン)さんが、物語画集『ORACLE』を刊行した。
「一本の映画を見た時のような満足感」「まるで自分も冒険しているかのように楽しめる」と、圧倒的な没入体験へといざなう濃密な世界観がファンタジーファンのあいだで話題の一冊だ。
書籍化が実現したのは、「ダークファンタジーの巨匠」とも呼ばれるgehnさんが、SNSに投稿したオリジナルのイラストがきっかけだった。
世界最高峰の国際的デザインアワード「A’Design Award & Competition 2021」でブロンズ賞の受賞しているgehnさんが手掛けた物語画集とはどんな作品なのか?
緻密な裏設定を持つ世界観を圧倒的な画力で描いた本作の制作秘話を、著者のgehnさん本人と担当編集者が語った。
イラストの裏に精密な世界観設定があるからこそ、「物語画集」なのである
――タイトルに見慣れない「物語画集」という言葉が使われていますね。いわゆる一般的な「画集」と、何が違うのでしょうか?
gehn:ほとんどの作品において、イラストと文章をセットで見せる紙面構成になっています。イラスト作品だけで構成されている画集ではない、という点が大きな特徴ですね。制作の早い段階でしたが、この画集のタイトルを検討しているときに、編集者のKさんから、「“物語画集”でいきたい」と提案されました。それを聞いた瞬間、「この人はなんてロマンチストなんだ……!」と心を打たれたんですよ(笑)。僕には決して思いつかない、この書籍を的確に表す言葉だと感じたからです。
もちろん、イラストだけでも問題ないくらい、力を入れて作った作品であることは間違いないのですが、物語とセットで読んでいただくほうが、この「ORACLE」という世界をもっと楽しんでいただけるはずです。
――画集に物語を掲載しようという考えは、どのようにして生まれたのでしょうか?
編集K:gehnさんはもともと、イラストごとにその背景設定を綴った文章を用意していました。この書籍を企画するにあたり、まずその原稿を読ませてもらったんです。すると、絵の内部にある詳細な設定が、じつに興味深かったんですよね。文章を読んだ後に改めて絵を見ると、「あ、そういうことだったんだ!」と。これは、「読者に伝えるべきだ」と感じました。
gehnさんのその文章を検討し修正するなかで注意したのは、「絵を見てわかることは、原稿からは落とす」ということでした。一方で、絵だけでは気づかない設定や世界観がそこに表現されているのであれば、それは伝えないともったいない。gehnさんは、いまここには無い世界を明確にイメージしている。「世界構築力」のある方だと感じたんです。それを表現した文章は、絵の魅力と同等であり、決して絵のおまけではないんです。これはとにかく、書籍に絶対入れたい。もうそれは、編集者としての強い思いでしたね。
gehn:そこを発掘してもらったのはたしかにありがたかったです。自分では無頓着でしたから。
――絵を描きながら、文章も書く。さらに構成も考えて、という作業工程でしたが、それは実際にされてどうでしたか?
gehn:すごく面白かったですね。個々の作品たちを一本の線で貫くようなベースとなるストーリーって、これまで公開しておらず、制作のためだけにメモのように残しておいたものです。
「このキャラクターの役割とか、この背景の位置付けってこういうことなのかな?」というように、改めて自分の中で整理をする。その作業が必要でした。と同時に、まだ漠然としていたその世界観をつき詰めていき、第三者にも理解できるようにまとめ上げなければいけなかった。それは、今回の企画で最も腰を入れて作業にあたったことでしたね。
僕にとっては、これが「書籍化」なんだと、この本づくりの過程で感じました。
だから、Kさんとは、この画集を、「イラストだけの羅列にはしたくない」という話をよくしていました。作品の背景にある物語に興味を示してくれる、共感してくれる編集者との出会いが、今回の物語画集が生まれるきっかけになりました。
「もう一押し……何かできませんか?」決して妥協はしない。アーティストと編集者が二人三脚で歩む本づくり
――物語画集づくりにおいて、お二人が特にこだわったことはありますか?
gehn:あるとき、Kさんからこんな話があったんです。
「物語の導入となる設定も作れたし、各章の内容を伝えるあらすじも仕上がった。ただ……、この物語全体をまとめ上げる“筋”のようなものを、冒頭で設定できないですかね? 読者を最初からすっと引き込むような、背骨になるようなものがあるといいんですが……」と。私からすると、「えっ? この前はこれでOK!って言ってたはず。なのに今日はさらに別のアイデアを要求してくる……」という思いはあったんですが(笑)。
そこで生まれたのが、本文1ページ目のイラストです。羊飼いの少年が洞窟の中を覗いている。この羊飼いは、洞窟の奥をまっすぐに見ている。じつは、彼はこの物語画集の読者、という設定です。洞窟の奥にある巻き物が、不思議な力で、少年(=読者)を物語画集の世界にいざなって……「ORACLEの世界にようこそ」と呼び込んでいるのです。
カバーの明るくて壮大な雰囲気から一転、ページをめくった瞬間、この洞窟の中にどんっと放り込まれる。だんだんとこの世界の深いところに入ってくような予感を演出しました。
Kさんは、「あとちょっとで、もっとよくなるんですよ」というような、ひと押しをよくしてくるんです(笑)。でもその結果、僕も、「冒頭に力を入れて、本全体が締まったな」と感じています。
編集K:1ページのこの「洞窟を覗く羊飼い」の絵が上がってきたとき、私はもう本当に狂気乱舞したんです。「よし、これで自分の仕事は終わった。いい本になるぞ!!」と。
何がうれしかったかというと、ずっとgehnさんと「こんな本にしたいよね」と対話して練り上げてきたコンセプトが、たった一枚の絵で表現されていたことです。この「洞窟の絵」には文字がないんですが、「これから何かが始まる」というのを強く予感させる。「お話、はじまりはじまり~」という声が聞こえてきそうです。すると、「どこへいざなってくれるんだろう?」と、もうワクワクしてくる。期待感が上がる絵なんですよね。それが、悩んでいた冒頭で用意できたことで、もう達成感でいっぱいになり、「gehnさん、お疲れ様でした!!」という思いでした。
gehn:それはうれしいですね。僕自身も気に入ってるんですよ、この導入の作品は。
ここで、こだわっている点がもう一つ。
現実の動物である「羊」や「少年」がいるし、けっしてファンタジーじゃない。物語は現実的なところから始まるわけです。その後、ファンタジーが展開するにしても、やっぱり「現実」に足がついた内容にしていたいんです。そして、ゆっくりといつの間にか、ファンタジーに吸い込まれていく……というような。
世界を構築していく際に、「地に足がついたファンタジー」って、僕の中では、すごく重要なテーマなんですよね。「どファンタジーじゃない」というか……。
「こういう光景って、ひょっとしたら、中世ヨーロッパとかっていう時代にはあったかも」と感じられるようにしたい。そこにはいつも、こだわっていますね。
――作者のこだわりと編集者の想いがあって、それが一冊の本を作るにあたって「同じ方向」を向いてきたからこそ生まれた作品なんですね。